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◆H5vacvVhok氏が手掛けた作品 話数 題名 登場人物 006 ランドセルランドの虐殺劇 零崎軋識、真庭喰鮫 009 クラッシュクラシックの赤い魔法 零崎曲識、水倉りすか 011 真庭狂犬の災難 玖渚友、西条玉藻、無桐伊織、真庭狂犬 015 全てが0になる 時宮時刻、零崎人識、櫃内様刻、病院坂黒猫、病院坂迷路 035 NO ONE LIVES FOREVER 零崎人識、匂宮出夢、鑢七実 2回目 零崎人識 1回目 零崎軋識、真庭喰鮫、零崎曲識、水倉りすか、玖渚友、 西条玉藻、無桐伊織、真庭狂犬、時宮時刻、櫃内様刻、 病院坂黒猫、病院坂迷路、匂宮出夢、鑢七実 名前 コメント
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おしまいの安息(最後の手段)◆xR8DbSLW.w ◇ 鑢七花――真庭蝙蝠に拾われたあの人物を七花とあえて呼ぶならば――彼の惨状たるや、 口にするのも憚られるほど極まっているが、しかし、しかし。改めて考えてみると奇妙な点もある。 『混沌よりも這い寄る混沌』球磨川禊と、『天災』鑢七実の複合体が奇妙でないわけがないが、 それを踏まえても――なぜ、鑢七花は眠っていた? 刀が人を斬った代償としてはあまりにも大きい代償を負い、仕合に負けて、不貞腐れていた。 不貞寝し、腐っていたのも、間違いない事実ではあろう。 一方で、『誰の心境』が、そうさせていたのか。 これも質さなければならないことだ。 鑢七実の性質か――いや、いや。 さながら死体が生命を得てしまったような、押したら崩れてしまいそうなほど儚げな七実ではあるが、彼女はその実、目的意識の塊だ。 かつて、『七花八裂』の脆弱性を指摘するために島から出たことも、 七花を研ぎ直すための場をわざわざ設けたことも、七実の機能性を象徴している。 今この場における刀としての彼女の行動など言わずもがなだ。 彼女が刀――道具であればこそ、己が機能、目的を果たさんとするのは必然とも言える。 では誰だ。誰の影響か。決まっている。 『却本作り』の出自を辿れば、球磨川禊しかあり得まい。 しかしそれこそ本来はあるはずがないのだ。 負け戦なら百戦錬磨、敗北すること一騎当千、そして、立ち上がること無二無三。 たかだか致命的な挫折ぐらいで不貞腐れるなど、矛盾と言わず何という。 「■■■、■■■■■■■■■■■■」 かつて、あるいは未来。 『彼女』は言った。 生徒会戦挙の会長戦。『人間比べ』のその果てにて。 『彼女』は問うた。 球磨川禊の負けても這い上がる姿について、負けてなお、立ち上がる球磨川禊の『強さ』について。 『彼女』は説いた。 球磨川禊が、弱くも果てしなく強かだからこそ、『却本作り』に制されてなお、立ち上がれるのだと。 では、鑢七花は? 彼が立ち上がれなかった理由とはなんだ? そして、『とがめ』という新たな『拠り所』を見つけた彼が、 曲がりなりにも――刀身も刀心も折れてなお、立ち上がれた理由とはなんだ? ◇ これもまた、少し前の話。 『ふわぁ……』 夜。草木の匂いも薄く、虫の音も、鳥の声もない。 生命感の乏しい閑静な街中にあくびがこだまする。 殺し合いの最中というにはあまりにも不釣り合いなほど呑気で、かつ退屈極まる大きなあくびだった。 「お疲れになられましたか」 虚刀流、鑢七実が振り返りざまに尋ねる。 虚弱さ薄幸さが形を成したような女に体調を心配されるとはまことに奇怪ではあるものの、 七実の容態を加味してなお、あくびの主、球磨川の気は緩んでいた。 「禊さんにも眠たくなることなんてあるのですね」 『おいおい、そもそも人は夜に寝るものだぜ』 過負荷、球磨川禊は当然のことをさも当然のように言う。 いくら弱く、図抜けて弱く、果たして弱かったとしても、生物学上球磨川は人間だ。 人である以上、眠気を抱くというのもおかしくない。 ただそれは、おかしくないというだけだ。 球磨川が眠たいだなんて寝言をほざくのは、なんとも奇妙な話のようにも思えた。 奇矯でこそあれ、奇妙であるとは――。 「でしたら少し、お休みになりますか」 夜の帳が下り、周囲一帯は暗い。 灯りはついていないものの、このあたりには家屋がちらほらと並んでいる。 休める場所くらいはあるだろう。 ランドセルランドまではもうまもなくであるはずだが、逆に言ってしまえば、十分に休むなら機会はこれが最後になるはずだ。 『七実ちゃんがそういうなら、ちょっと休もうか』 別に急ぐ理由もないしね、と。 適当な民家を見繕うために、のらりくらりと歩き始めた。 そんな彼の背中をじぃと見つめ、七実は省察する。これまでと、これからを。 見て、観て、視て、診て、看る。持ち手の様子を、様態を、容態を。 ◇ 探検と称して薄暗い家屋に突撃したわけですが、 案の定何があるわけでもなく、ちぇーと不貞腐れた禊さんは横になられました。 上等な布団に包まる禊さんの顔ときたらあまりにも安らかなものですから、 見たことないほどに満たされておりますから、張り手のひとつでもお見舞いしたくもなりますが、閑話休題。 「さて、さて、さて」 さて、と。思考を切り替える。思考を、あるいを趣向を。 従者として、そして刀として、わたしがなにを研ぎ澄ませばいいのか、研ぎ、済ませばいいのか。 今一度整理をする必要がある。これからについての、精査を。 「よく眠っていらして」 眠る禊さんの頬を撫でる。 七花よりも幼く、まだ張りを残した柔らかな頬からは、緊張感のかけらも感じられない。 すやすやと眠るさまはさながら子どものようだ――いや、間違いなく禊さんは子どもなのでしょう。 肉体的においても、精神的においても。 さながら虫を潰す幼児のように、彼の中には良いも悪いもない。 無邪気な狂気とでも申しましょうか。 彼がしきりに申し開く、僕は悪くないという言葉。 なるほど、言い得て妙かもしれません。 文字通りに、悪くもなければ良くもない。 何をしたところで彼の中では、何事もなく台無しで完結してして、 自分勝手で、他人任せで、どうしようもなく、どうにもならない。 他者と価値観を共有できず、まるごとに全てをおじゃんとする、 群れを好みながらも群れに厭われる様をどうして大人と、人間と言えましょう。 「人間未満――幼きもの」 しかし、群れに嫌われながらも、負けながらも、それでも禊さんは群れを成していたと聞きます。群れを率いていたと仰りました。 マイナス十三組、『ぬるい友情・無駄な努力・むなしい勝利』の三つのモットーを掲げた泥舟の頭に、禊さんはいたらしい。 曰く、わたしも所属しているそうなので、 伝聞のように表すのも的確ではないでしょうが、良しとしましょう。悪いとしましょう。 ともあれ、あまりにも幼く、世界が己で閉じている彼が、集団行動に向かない彼が、 それでも人を率いることが出来でいたとするならば、彼にあるのは幼さだけではなかったということでしょう。 「目的――目標。モットー」 勝ちたい。 常敗無敵である禊さんの悲願は、その一言に尽きる。 彼の持ちうる最大限の人間らしさであり、彼の人間性を担保するものであり、唯一にして無二の、他者と共有できる価値観だった。 だからこそ、群れることをかろうじて許された。成し遂げた。 先刻禊さんも仰られた通り、生憎とわたしは共感できない価値観ではあります。 ただし、共有することはできましょう。 負けたいと願っていたわたしの願いは、方向性は真逆であれど、 故にわたしの願いこそ他者に理解はされないでしょうけれど、その内実は同じようなものなのですから。 隣の芝生は青いだけと指摘されれば、 返す言葉も見当たらないので返す刀で斬りつけてしまいそうなほど、口にしてしまえば存外に陳腐な願いです。 禊さんには『可能』がないから、わたしには『不可能』がないからこそ、自分にできないことをしたい――。 ええ、当たり前の思いでしょう。 「…………」 先程、禊さんは勝ちました。黒神めだかに、念願の相手に。 詭弁であれ、奇策であれ、勝ちは勝ち。幼き混沌が掴む勝利としてはふさわしい、むなしくも誇らしい勝利を得ました。 故に、でしょうか。 禊さんの士気が著しく低下している、ように見えるのは。 彼は大嘘吐きですから気のせいかもしれません。 念願の勝利を掴んで次なる目標を失ったというならば気の毒かもしれません。――いえ、いえ。 「それも戯言、ですか」 誰よりも弱いからこそ、厭世の念に埋まるように浸かっていたからこそ、 誰よりも現実を省みず、現実味がなく、夢みがちで少年のような精神を持ち合わせていたはずのあなたが、 あれなる勝利で満足する道理はありますまい。 週刊少年ジャンプなる絵巻ような現実を切望していたからこそ、あの結末に絶望していたのに。 そもそも禊さんの記憶は、他ならぬわたしが封印しているというのに、勝利の記憶も何もないだろう。 「殊の外、深く螺子が刺さっておいでで」 だとしたら、やはり原因は黒神めだかということになるでしょう。 彼女との果たし合いを望んでいた時のあなたは、それはもう思春期のように――思春期相応にうきうきとした様子でしたのに。 わかってはいたことだ。これもまた、他ならぬわたしが言ったことですから。 「あなたは黒神めだかに縛られています」 いや、黒神めだかの亡き今、――無き今あなたを縛るものなどないというのに。 だとしたら、もはや自縄自縛と言う他にないでしょう。 目標を、目的を、黒神めだかの打倒のみに据えてしまった、あなたの間違い。 勝てば良かったはずなのに、踏み外してしまった過ち。 唯一の人間性を失って、何をどうしたいのか。それを導くのが良いのか、悪いのか。 「いっしょにだめになる。ええ、ええ」 想いを違えることはありませんとも。 眠る球磨川の髪をあやすように梳く。 本当に幼児のような寝顔だ。 閉じた瞼の裏にあるのは、あの底知れない闇のような瞳なのでしょうか。 はたまた、底抜けの空虚だとでもいうのでしょうか。 今、禊さんは何を見つめているのでしょう。もはや人と決して分かり合えない、混沌の子。球磨川禊さん。 ◇ ×××××。×××××。 ■■■。 ■■■■■。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。 「■■■■■■■■■■■■」 ■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。■■■■■■■■。 ◇ 四半刻も過ぎない頃。 仮眠から起こしてた後、ランドセルランドに着きました。 仮眠をとってなお眠たそうにしていたものの、まばたきをする間にはけろっとしておられます。 「眠気」をなかったことにしたのでしょう。 でしたら先のやり取りはなんだったのかということになりますが、彼の言葉にいちいち荒波を立てることもありません。 「おはようございます」 『うん、おはよう。今日も清々しい夜だね』 「良い夢は見れましたか」 『そりゃあもう、幸せな夢がいっぱいさ』 「左様で」 『さっきあんな話をしたばっかりだからかな、七実ちゃんがいろんな姿で出てきてさ。 七実ちゃんだけに七変化、なんて――おいおいそんな冷たい目で見つめてなんだよ? 可愛い可愛いギャグにいちいち目クジラ立ててたらこの世の中死にづらいぜ。 夢でもそんな目をした七実ちゃんがいたよ。あの子はナース服を着ていたかな。 弱った身体に最も近く、弱った心に寄り添う白衣の天使が、射殺さんばかりの視線を――死線を投げかけている。 そのアンバランスさと言ったら名状しがたき興奮を覚えるけれども、別段僕の被虐性が飛び抜けているというわけじゃあないぜ』 「はい」 『本来あるべき姿とのギャップ――乖離、剥離、別離。 やっぱりトキメキの原点ってそこにあるよね。 七実ちゃんはツンデレって知ってる? あれも典型的な類型さ。 一世代築いただけあって、あるいは今も連綿と続く文化なだけあって、ギャップ萌えとしてのお手本のような形とされているんだ』 「博識なことで」 『でもさあ、本来あるべき姿ってなんだよ』 「…………」 『あなたはかくあるべし、なんて一方的に決めつけておいて、 レールから外れれば「あなたも人間らしいところがあるのね」なんて安心感を覚える。 完璧な人間なんかいないんだと安堵する。 ――差別的で、一方的で、侮蔑的で、醜悪さに起因する萌え、 それがギャップというものだけれど、もっとも黄金的な属性なだけに人によって定義が違うんだよね』 「よかったですね」 『とはいえ、とはいえさ、落差が萌えの基本なのは疑いようもない。 『優等生然していた子のパンツが実はいちごパンツだった』なんていうも、取っ掛かりの一つだよね。 ああっ! 夢の中にはセーラー服な七実ちゃんもいたんだぜっ!? 落差っていう意味ではこれ以上ないかもしれないね!』 「はい」 『ラブコメチックな七実ちゃんを見てたら投影しちゃったのかな。 セーラー服こそラブコメのメッカ、ラブコメこそセーラー服! 軍事力のモチーフが今となってはコメディの、日常性の象徴なんてとんだ笑い話だけど、そんな滑稽さも僕は好きでね。 僕が意地でも学ランを着ている理由も青春ラブコメがしたいからなんだぜ、知ってた? いやあ、箱庭学園にも出会いを求めて入学したけど、まったく全然だ。 食パン咥えて走る女子がいないのなんのって。 せっかく普通科なんてものがある学校に編入したんだから そんな普遍的なイベントに参加したかったものだけど、やっぱり僕にはだめだったよ』 「そうでしたか」 『僕の悲劇を抜きにしてもセーラー服ってブレザーにはない味があるよね。 だってブレザーってエリートって感じがするだろう? やれやれブレザーが一般化した今でも放たれるブレザーの主張の強さにはさしもの僕でも辟易するよ。 その点セーラー服の隷属的かつ底辺的普遍性は胸をうつばかりさ』 「困りましたね」 『それで、なんでさっきの七実ちゃんはあんな楽しそうにしてたの?』 「――」 『あっ』 省略。 『まあでもさ、ラブコメにも落差って必ずある――むしろ落差こと主眼といってもいい』 「……」 『『ビデオガール』や『宇宙人の王女』みたいな位相(リアリティ)の差も然り、 平々凡々と『グラビアの同窓生』なんていう、ありきたりな位相(カースト)の差も然り。 相手と違うからこそ見てしまう、見惚れてしまう』 「……」 『あくまでこれはプラスに生きる奴らの考え方さ。 『主人公(プラス)』と『ヒロイン』――『勝ちヒロイン(プラス)』による舞台の話。 舞台にすら上がれない僕みたいな負け犬は同族で群れるしかない、あるいは同族嫌悪で対消滅するしかない。 話は逸れちゃったけど、めくるめく七実ちゃん大変身には僕も『包丁人味平』もびっくりな実況をしてしまったほどだけれど 二話連続同じ話で紙幅を誤魔化すほど僕も優しくないぜ。だから、夢の映像は僕の胸の内に秘めるとするよ』 「そうですか」 『まったく、これが週刊少年ジャンプなら読者アンケートの集計結果を公表するとともに 七実ちゃんのあられもない絵姿を描画することができたんだけど。 第一位、第二位、第三位、エトセトラエトセトラ―― みんなの願いが、みんなの想いが、みんなの期待が、そのページに詰まっているわけだから』 「ええ」 『人気投票――人気の数値化。よくあるシステム、ありきたりなストア商法、 しかし夢を売る週刊少年ジャンプの一番根底にあるシステムが現実をまざまざと突きつけるアンケートだなんて、酷な話だと思わない? 弱肉強食、自然淘汰――なんて聞こえはいいけど、敗者は敗者のまま、 あなたの作品は不要ですという世論を持ち出されて退場するしかない。 あなたの作品が、あなたの思想が、あなたの信念が、あなたの理想が、あなたの現実が、あなたの存在が、 世の中に噛み合わず、世の中に適合せず、世の中に爪弾かれ、 世の中に疎まれ、世の中に蔑まれ、世の中に嘲笑われ、世の中に抹消され、 不要で、不毛で、不当で、不敬で、不能で、不快で、 どうにもならないほどどうでもいいと負け組レッテルを貼られるだなんて、なんとも奇縁なものだよ』 「はぁ」 『そういう意味では打ち切りリベンジに二作目を引っ提げて帰ってきた作家―― あるいは連載を細々と続けているような作品にしたって、嫌われないために努力しているんだろうね。 趣向を変え、初心に返り、社会を顧み、あまねく試行錯誤の末、結果は期待に適応することを選ぶ。 なんてたって、枠は三つもあるからね。一番じゃなくても二番でいい、二番になれずとも三番ならば。 皆様が望むのならばこのキャラを出しましょう、皆様が望むのならばこのキャラを殺しましょう、 そう、あなたの望む姿に成り代わりましょう。 夢の極地、憧れの最果てにあるのが嫌われないための努力だなんて、なんともナンセンスな話だとおもわない?』 「いえ、なんとも」 『そう、そうだぜ。世の中大半の人はどうでもいいと思っている。 だって、そんな涙ぐましい努力なんて、好かれる才能をもった作品が一瞬で掻っ攫っていくからさ。 好かれる才能と嫌われない努力――プラスとマイナス。 持つべきものが持ち、勝つべきものが勝つ必然。敗者に待ち構えるのは、だらだらとした惰性。 やれやれ、夢を見せるジャンプにしたって、夢を見せてくれないね』 「はあ、それで、なにが言いたかったのです」 『七実ちゃんのクラシカルロングのメイド服が第三位だったという話さ』 冥土? めいど? なんだか可愛らしい響きですね。 禊さんのこういった類の話は半分ほど聞いておけばいいとして、しかし、望まれた姿――に変質する話。 先程もそういえば、そんな話をされていたような。こすぷれ――成り代わる、確かそんな話を。 気まぐれか、気休めか。それとも、なにか深層心理が訴えかけているのかしら。 話の途切れ目。わずかな呼吸の音が、一拍分。息をしたのはわたしだったか、彼だったか。 息を呑んだのは、果たして。 間隙を縫うように、わたしは言葉を投げかける。 「ひとつ、お尋ねてしてもいいですか」 『ん? どうしたの?』 「禊さん、あなたの目的――この戦場での目的を、改めてお伺いしても、よろしいですか」 じぃ、と。 深く、深く、深く、見て見られて、観て観られて、目が合った。 いつものように、嘘のような微笑みを湛えて。 『なんだと思う?』 今度こそ、わたしは息を呑む。 なにかはわからないけれど。 なにかに圧倒されたような、不思議な心地で、だからわたしの胸は高まったような気がして。 ですが次の瞬間には、禊さんはすっきりとした風に破顔しました。 『なーんて冗談冗談! 僕の目的は相変わらず、あのじいさんを串刺しにすることだよ。だって偉そうに偉くてムカつくだろ?』 やっだなー、と。おどけた調子で笑う禊さんの顔を。 わたしはじぃと、ずっと、見つめている。 愛くるしい顔立ちの裏を見ようと、目を背けまいと、彼の瞳を認め、あなたの心が焦がれるよう見惚れていました。 大袈裟な哄笑をやめ、おっかしーなんて嘯きながら、何気なしに禊さんは口を開きます。 『ねえ、七実ちゃん』 「なんでしょう」 『いい夢見れた?』 「……はい」 いえ、悪い夢なのかもしれませんけれど。見つめても見惚れても、禊さんの瞳はどこまでも真っ黒でした。 □ それから間も無くのことです。 ごちゃごちゃとしたこの憩い場に鎮座するがらくたと遭遇しました。 がらくたの、がらくた。 おもちゃの成れの果てです。 「――人間・認識」 きっとあれは、夢の痕跡。 刀としての感性が、そういうものだと認識する。 【二日目/黎明/E-6 ランドセルランド内】 【球磨川禊@めだかボックス】 [状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ』 [装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』 [道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックス、クロスボウ(5/6)@戯言シリーズと予備の矢18本があるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』 [思考] 『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』 『0番はやっぱメンバー集めだよね』 『1番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』 『2番は……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』 [備考] ※『大嘘憑き』に規制があります 存在、能力をなかった事には出来ない 自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません 他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません 怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能) 物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします ※始まりの過負荷を返してもらっています ※首輪は外れています ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします 【鑢七実@刀語】 [状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中 [装備]四季崎記紀の残留思念×1 [道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(0~2)、球磨川の首輪、否定姫の鉄扇@刀語、 『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル [思考] 基本:球磨川禊の刀として生きる 0:禊さんと一緒に行く 1:禊さんはわたしが必ず守る 2:邪魔をしないのならば、今は草むしりはやめておきましょう 3:繰想術が使えないかと思ったのですけれど、残念 4:八九寺さんの記憶が戻っていて、鬱陶しい態度を取るようであれば…… [備考] ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました ※弱さを見取れます。 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします 【日和号@刀語】 [状態]足部破壊 [装備]刀×4@刀語 [思考] 基本:人間・斬殺 1:上書き。内部巡回 2:人間・認識。即刻・斬殺 [備考] ※下部を徹底的に破壊されたため、歩行・飛行は不可能です。上部がどうなっているか(刀の損傷・駆動可能など)は後続の書き手にお任せします 着包み/気狂い 時系列順 非通知の独解 非通知の独解 投下順 「柔いしのびとして」 着包み/気狂い 鑢七実 待ち人は来ず 着包み/気狂い 球磨川禊 待ち人は来ず 鉛色のフィクション 日和号 待ち人は来ず
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かいきバード ◆wUZst.K6uE まったく、いったい何度俺を走らせれば気が済むのか。 全国を放浪している身であるとはいえ、移動手段のほとんどが飛行機かタクシー、あるいは電車というこの俺が一日の間にこれほどの距離を自分の足で移動するというのは、実のところ生まれて初めての経験だった。 いや、生まれて初めてというのは嘘だが。 どっちにしても、長距離をわざわざ徒歩で移動するというのはどうにも性に合わない。そんなことを言うと俺がまるで虚弱体質のように聞こえるが、俺の場合は正確に言うと「金を使わず移動する」ことが性に合わないのだと思う。 別に浪費癖があるわけではないが、金は貯めるものでなく使うものだという思想を貫いている俺にとって、金を払えば済むところをそれを惜しんで払わずに済ますというのは金を浪費する以上に無駄な行為であるように思えてしまう。 節約しようとする意識自体を否定する気はないが、使うべき金を使わなかった結果として代わりに何を消費したのかお前は理解しているのかと、倹約家気取りの連中を見るたび俺は問い質したくなる。 金は万能だが、至上のものではない。それを理解しない連中が多すぎる。 まあ実際には俺はそんなこと全く思っていないのかもしれないし、徒歩で移動するのに抵抗があるのは単に疲れるからという理由かもしれないし、自分の足で移動するのも実はそれほど嫌いじゃないのかもしれない。 そもそもここで金の話をするのが間違っている。いちおう江迎のやつと最初に出会ったときに預かっておいた所持金が今の俺の懐にはあるが、ここから脱出した後でもない限り使う機会はまずないだろう。 つまりはただ言ってみただけだ。 俺の言うことを真面目に聞くのは、それこそ時間の浪費でしかない。俺が一人称を務めるパートを読む際には、それを十分に心に留めておくことを強くお勧めする。 「やれやれ……とでも言うべきところなのか、ここは」 ランドセルランドを去ってからどれくらい経っただろうか。 哀川潤と西条玉藻の二人組からまんまと逃げおおせた俺こと貝木泥舟は、ようやくちゃんとした道路がある場所へとたどり着く。 地図の性質上、名前の付いている場所以外で道路から外れたところを移動していると、自分がどこを歩いているのかわからなくなって不安になる。コンパスを見ながら歩けばいいのだろうが、どうにも面倒だ。 後ろを振り返ってあの散切り頭の少女が追ってきていないのを確認し、俺はようやく一息つく。近くの壁に背をもたれ、ペットボトルの水を一口飲む。 一難去ってまた一難とは言うが、こうも立て続けに厄介そうな相手と遭遇していては心休まる暇もない。 何事に対しても万難を排してから臨む主義の俺だが、今の調子では万難を排したところですぐに次の万難が怒涛のごとく押し寄せてきそうな気さえする。 万難排してまた万難。嫌がらせのような言葉だ。 まあ詐欺師という職を営んでいる以上、心休まる暇などあってないようなものだが。 犯罪者には常に心の不安が付きまとう。俺も詐欺師として生きる道を選択した時点で一生を不安とともに生きる覚悟はしているし、いつでも死ぬ覚悟はできている。善良な市民を食い物にするような生き方をするからには、そのくらいの覚悟は当然のことだ。 まあそれも嘘だが。 「さて、次はどこへ向かおうか」 俺は地図を開く。ランドセルランドから北東にまっすぐ進んできたはずだから、現在地はE-7とF-7の境界付近あたりだろう。道なりに進めば、南東なら図書館、西方向ならまたネットカフェに戻ることになる。 ネットカフェに戻る意味は今のところないから図書館に向かうのが順当だろうが、俺の目はもうひとつの場所、図書館とは正反対の方向に位置する施設を捉えていた。 斜道卿壱郎研究施設。 ネットカフェでパソコン越しに会話を交わした、あの玖渚友とかいう奴がいると言っていた場所だ。 すでにそこは禁止エリアに指定されている。とうに下山(「登山」の可能性もなくはないが)は終えているだろうが、問題は竹取山をどっち方向へと抜けていったかだ。 もし玖渚が俺のいる方向へ下山していたとしたら、位置的に見てまだこの周辺をうろついている可能性は、高くはないがありえなくはない。 一度は無視しておくことに決めたが、もしこちらから玖渚友を探すとしたら今が好機ではないか? しかし会ってどうする? わざわざ会いに行くメリットがあるか? いや、一応メリットはある。パソコン越しに会話したとき、あいつはすでに普通では手に入らないような情報まで数多く収集している様子だった。あれからおよそ6時間、新たな情報を入手している可能性はかなり高い。 情報を得るために会うだけでも有益と言える相手ではある。 話を聞くだけなら掲示板の連絡フォームを使えばいいのだろうが、重要な情報を聞き出すのが目的である以上、相手の用意したフィールドでの会話は望ましくない。できればこちらから不意打ちで会いに行くというのが理想だ。 俺から渡せる情報はほとんどないが、そこは俺、相手が喜びそうな情報くらい即興ででっちあげる自信はある。 バレた時が怖いが、その時はまあその時だ。 問題は、俺が玖渚友の人となりについてほとんど把握できていないということだ。相手を騙すには、相手について最低限の知識は得ておく必要がある。 俺が言うのも何だが、玖渚という奴はかなりの食わせ者だ。向こうが設えた場での会話だったとはいえ、俺が騙しきれなかった相手なのだから。 最終的に名乗っていた「玖渚友」という名前が本名だったのかどうかもまた、未だに明確であるとは言えない。さすがにそこまで疑っていたらキリがないだろうが。 今更だが、ここの参加者には俺との相性が悪い奴が多すぎる。 球磨川禊にしても、さっき出会った哀川潤にしても、俺が持つ詐欺師としてのテクがまるで役に立たない。どころか会話を交わす前から本能で「こいつは駄目だ」と直感できるような相手ばかりだというのだから空恐ろしい。 西条玉藻に至っては会話すらろくに成り立たないという始末。マンション付近で追いかけられた時と比べるとある程度まともな様子ではあったが(哀川潤がそばにいたせいだろうか?)、それでも逃げたのは正解だったと思う。 最初のときはナイフが役に立ったが、今度はメイド服が逃走の役に立ったというのだから、いやはや、人生何がどう役立つかわかったものではない。 メイド服に救われる経験など、人生で一度あれば十分だろうが。 唯一俺の手駒として機能していた参加者といえば江迎怒江だが、あれはあれで相性がいいとは言えない。 球磨川や哀川潤が「騙しにくい」なら、江迎の奴は「一方的に信じてくる」だ。こっちが騙すより先に勝手に信じてくるというのだから、球磨川たちとは真逆の意味で騙すことが難しい。 それどころか、たとえこちらから「信じるな」と言ってみたところでおそらく毫ほども意に介さない性格をしているというのだから、基本的に制御のしようがない。 つまりどちらにせよ扱いにくいことに変わりはない。俺のために働いてくれるぶん、江迎のほうがどちらかといえば重宝するだろうが。 ここには狂人しかいないのかと言いたくなる。 そんなことを言うと、まるで俺自身がまともな人間であると言っているように聞こえてしまうかもしれないが、そのとおり、俺は自分のことをまともな人間だと思っている。 詐欺師が何を言うか、などと言う輩がいたとしたら、それは詐欺師に対する誤解だと俺は言い返す。仮に詐欺師が狂人ばかりだったとしたら、そもそも詐欺という犯罪自体成り立っているはずがない。 まともな思考ができるからこそ人を騙せる。まともな人間にこそ人は騙される。 つまりはそういうことだ。 ゆえに俺は、正常な人間らしくこのバトルロワイアルに臨む。狂人に混じって殺し合いを演じる気は始めからない。まともに人を騙し、まともにここから逃げる策略を練る。 「そう、『騙す』――俺がやるべきことは、それに尽きるはずだ」 壁から背を離し、道路に沿って歩き始める。 足は自然と図書館のほうへ向いていた。今の時点で玖渚友と直接対峙するのは、やはりまだ準備が浅い気がする。 今まではほとんど逃げに徹してきたが、それもいよいよ限界だ。禁止エリアの数が増え、参加者の数が減るごとに状況は煮詰まってくる。殺し合いに乗る人間もここから更に増えるかもしれない。 そろそろ本格的に、ここから脱出するための策略を練らなければならない。 すなわち、主催者側と接触を図るための策略。 より直截的に言うなら、主催を騙すための策略。 正味な話、俺が自力で生き残るにはそれしかないと思っている。出会う奴出会う奴すべてを騙し続けていったところで、結局のところその場しのぎにしかならない。 それにさっきも言ったが、ここには俺にとって鬼門となる奴が多すぎる。一切の謙遜を抜きにして、俺が今生き残っていること自体が奇跡以外の何物でもない。 逃げ場のないこのフィールドの中にいては、遅かれ早かれ行き詰まることは確定している。ならば必然、外側に活路を求める以外にない。 主催者側に属する人間が何人いるのかはわからない。ただ、そのうち一人でも接触することができたとしたら、その時こそ俺の詐欺師としての本領発揮だ。 口八丁手八丁、なりふり構わず手段を選ばず、どんな手を使ってでも主催側に取り入ってみせる。 この殺し合いを止めさせるだとか、別にそこまでやる必要はない。俺に付いているこの首輪、これの外し方さえ聞き出せたらそれでいい。 この首輪さえ外すことができれば長居は無用だ。どうにか脱出の算段をつけてさっさとおさらばさせてもらう。 他の参加者たちを置いて俺だけ逃げるというのは良心が痛むが、さすがに全員まとめて救い出すほどの余裕はあるまい。仮にできたとしても、抱えるリスクがでかすぎる。 まあ当然、良心が痛むというのは嘘だが。そもそも俺に良心など残っていたか? 俺は阿良々木暦やその妹のような正義の味方ごっこをするつもりは毛頭ない。俺が誰かを助けるとしたら、それに見合った対価を支払ってもらった時だけだ。支払ったとしても助けるとは限らないが。 しかし実際のところ、主催者の影すらつかめていない現状においてはそいつらを騙して取り入ろうなどという戦略も机上の空論でしかないわけだが。 どの道、協力者を得ないことにはどうにもならない。 主催者にアプローチをかけるための協力者となると、また数が限られてきそうではあるが………… 「……そういや、掲示板はどうなっているんだろうな」 ポケットからスマートフォンを取り出し、掲示板のページを再び開いてみる。 参加者の数ももう20人そこそこまで減ってきているというのに、意外に利用している奴が多いものだ。携帯電話を持っている奴が俺以外にも割といるのかもしれない。 ……まさかすべて玖渚の自演とかいうオチではないよな? 若干の不安を抱きながら、新しい書き込みがないかチェックしようとする。 「――おっと」 そのとき急に足の力が抜け、前のめりに倒れこんでしまう。スマートフォンが壊れないよう庇った形になったせいで、スーツの袖が泥まみれになってしまった。くそ、ここから脱出する前にクリーニング代を請求してやろうか。 疲労がたまったせいで足がもつれたのだろうか、などと思いながら立ち上がろうとするが、どういうわけか両足ともにうまく力が入らない。それどころか腿のあたりにじわじわとした痛みを感じる。 まさか肉離れでも起こしたか? だとしたら厄介だな――と右足にそっと触れる。途端、ぬるりとしたものが指先を濡らすのを感じ、反射的にそちらを見る。 血だった。 両の太腿と、そこに触れた指先がじっとりと血で湿っている。 実は道路に血まみれの死体が倒れていて、それに躓いた際に血が付いてしまったのだった――などということはもちろんなく、正真正銘俺自身の血だった。 その証拠に俺の脚には、直径3ミリほどの小さな穴が空いていた。左右それぞれに一箇所ずつ、後ろから前へ、何かが突き抜けていったかのように。 ……銃創? 「見たところさほど手練というわけでもなさそうだが、一度痛い目を見ているのでな――念のため下手な動きができないようにさせてもらった」 声のするほうを振り返ると、そこには奇矯な衣服をまとった男が立っていた。 どことなく怪鳥を思わせる風貌と、全身に巻かれた鎖。両手には一丁ずつ拳銃が握られている。 それぞれの銃口から立ち上る硝煙が、まさに今発砲されたばかりだという事実を示していた。どこへと向けて発砲されたのかは考えるまでもないだろう。 「貝木泥舟だな。おぬしに恨みはないが、死んでもらう」 恐ろしく冷たい目をしたその男は、恐ろしく冷たい声でそう言った。 「…………」 やれやれ、どうやら早くも次の一難が大手を振ってご登場のようだ。 しかも今度の一難は、そう簡単に去ってはくれそうにない。 ◆ ◆ ◆ 「足を潰されても取り乱す気配を見せぬというのはなかなかに意外だな。貝木泥舟。どうやら我が思うほど、凡庸な人間というわけでもないらしい」 片方の拳銃をこちらに向けたまま、男は探るような目で俺を見てくる。 俺は地面に突っ伏したまま、その視線を受け止める。最初に「死んでもらう」と豪語されているだけに今すぐ頭を撃ち抜かれてもおかしくない状態ではあるが、先んじて足を潰した余裕か、会話を交わす気はとりあえずあるらしい。 こういう余裕は正直ありがたい。 俺に取り乱す気配がないとこいつは言ったが、そんなもの混乱が表に出ないよう無理矢理取り繕っているだけに決まっている。心中では、あまりに唐突過ぎる展開と焼けつくような両足の痛みで脳がオーバーフローを起こしかねない勢いだった。 まず、こいつはいったい誰だ? 参加者の一人であることは当然として、なぜ俺の名前を知っている? いや――名前が知られていることに特段の不思議はないのかもしれない。俺のことを他の誰かに聞いた可能性は十分にあるし(又聞きでなければ江迎か球磨川、あるいは戦場ヶ原あたりか)、ランドセルランドで俺がやったように、名簿の名前から類推した可能性もある。 いきなり初対面である俺を殺そうとしている理由もあえて考える必要はあるまい。「恨みはないが」と前置きしているところからしても、おおかた腕に自身ありで馬鹿正直に殺し合いに乗っている者のうちの一人だろう。 あえて他の可能性を考えるとしたら、こいつは他の参加者の誰かから――例えば戦場ヶ原ひたぎあたりから俺のことを抹殺するよう依頼を受けていて、今まで俺のことを探し回っていた――という可能性はどうだろう。 考えられなくはないが、さすがにそこまで愉快な展開を期待するのは贅沢がすぎるというものだろう。そもそもあの女は、殺意を抱くほど憎い相手なら自分の手で殺さないと気が済まなさそうなタイプだからな。 …………ん? 冷静に考えてみるとこの状況、不可解な点などひとつもないんじゃないか? たまたま行きがかった殺人者が、たまたまここにいた俺を射殺しようとしている状況。 文章にしてみれば一行でこと足りる。 なんだ、ならややこしくあれこれ考える必要などない。やはり足を撃たれたショックで混乱していたようだ。 実のところ、こいつが何者なのかも服装を見た時点で予想できているしな。 「……初対面の相手にいきなり銃弾とは、随分なご挨拶じゃないか」 最大限平静を装いながら俺は言う。足の痛みで額には脂汗が浮かんでいることだろうし、地面に這いつくばった姿勢のままなので、どう取り繕ったところで無様にしか見えないだろうが。 「いくら殺し合いの場とはいっても、礼儀や作法をおろそかにするのは感心しないぞ。まして俺のように人畜無害な、見てのとおり丸腰の人間に不意討ちでしかも銃とは、外道以下のやり方だな。 何があったのかは知らんが、ここに来るまでによっぽど怖い目に会ったと見える。お前は素人相手にすら警戒心を抱きながらでないと向き合えない、ただの臆病者だな」 心にもないことを俺はまくしたてる。精一杯挑発してやったつもりだったが、相手は眉ひとつ動かさず、瞬きひとつすることなく、虫けらでも見るように俺を見下すだけだった。それどころか、 「ふむ――おぬしもこの刀が『銃』であることを知っているのか。あのときの青年が炎刀の名を口にしたときも少々驚いたが……どうやら我の認識以上に、変体刀に関する知識を持っている人間がこの場には存在しているらしい」 などと意味不明なことを口走る。 炎刀? 変体刀? 刀が銃ってどういうことだ。 「それと貝木泥舟よ、我のやり方に対して外道などと難癖をつけるのは全くの見当違いだ。我らしのびは卑怯卑劣こそが売り。礼儀作法というのであれば手段を一切選ばないことこそが礼儀であり、不意討ち闇討ち騙し討ちこそが作法。それに異を唱えるなど笑止千万」 俺の適当な挑発に対して真面目に受け答えてくれるのはありがたいが、残念ながら全く興味はなかった。ネットの掲示板にでも書き込んでいてくれ。 しかしこの男、自分のことをしのびと言ったか? 妙な風体をしているとは思ったが、言われてみれば一風変わったしのび装束に見えないこともない。 どうやら最近の忍者は平気で拳銃を使うらしい。ドーナツを食う吸血鬼よりはリアリティのある話かもしれないが、まったく末恐ろしい世の中だ。 「さて、死ぬ前にいくつか質問に答えてもらうぞ、貝木泥舟」 「……さっきから俺のことを貝木と呼んでいるが、残念ながら人違いだ。俺の名前は鈴木と――」 言いかけたところで、男が一切躊躇する様子なく拳銃の引き金を引く。弾丸は俺の脇腹あたりに命中し、両足の痛みが消し飛ぶほどの痛みを与える。 「ぐ…………うっ!」 うめきながら俺は、腹を抱えて上半身だけうずくまるような格好になる。急所は外しているようだが、おそらくわざとだろう。 さすがは忍者、生かさず殺さずのテクニックにも長けているようだ。 「我に虚言は通用しないものと思え。これ以上無駄ごとを口にするなら、次は素手で肉を抉り取るぞ」 そう言ってしのびの男は地面から石をひとつ拾い上げると、それを右手の力だけで粉々に握り潰して見せた。 ……なるほど、見た目からは想像もつかないが、どうやらとんでもない怪力の持ち主のようだ。俺の身体など、片手だけで易々と解体してしまえるに違いない。 「ふむ……付け替えた当初と比べてだいぶなじんできたようだな。あのままでは炎刀を握ることすらままならぬ有様であったし、力の加減が利くようになったのはありがたい」 また何かひとりごとを言っているようだが、こっちは痛みでそれどころじゃない。そのまま一人で喋っていてくれればいいのに。 「我がおぬしの名を知っている理由を説明してやる気はない。おぬしがそれを知ったところで、我にとってもおぬしにとっても何の意味もないのだからな」 そりゃそうだ。俺もそんなことを説明してほしいとは思っていない。 しかしここで黙ってしまったら、こちらから口を挟む余地がいよいよなくなる。そうなればもう俺が助かる可能性はゼロだ。助からないにしても、このまま唯々諾々とこいつの言いなりになって死ぬというのは面白くない。 ここは小悪党らしく、あがけるだけあがいてみようじゃないか。 痛みをこらえながら、俺はなんとか口を開く。 「そうだな、俺がお前の名前を知っていることに何の意味もないようにな、真庭鳳凰」 ここでようやくしのびの男――真庭鳳凰の表情に、微細だが虚を突かれたような気配が見てとれた。よし、どうやら正解のようだ。間違えていたら最悪だったが。 「…………どこで我の名を知った」 自分では意味がないと言っておきながらそんなことを訊いてくる鳳凰。一方的に名前を知っていることで優位に立ったつもりでいたか、馬鹿め。 「いや、少し前にお前の仲間にたまたま会ってな。そのときにお前のことも聞いた」 言うまでもないが嘘だ。会ったことは会ったが、どっちもすでに死体だったからな。 しかしその死体を見たことでこいつの正体を看過するに至ったのだから、全くの嘘とは言えないのかもしれない。 ネットカフェとランドセルランドで見た「真庭」と同じく、残りの二人もあんな珍妙な格好をしているかどうかは正直微妙なところだと思っていたが、どうやらこいつらは全員が全員、こんな見た目から名前が推測可能であるような装束を身に着けているらしい。 こいつら本当に忍者なんだろうな? いまひとつ説得力に欠ける。 相手の顔色を窺いながら、俺はさらに嘘を重ねる。 「名前は確か狂犬と喰鮫と言ったかな。殺し合いに関してかなり乗り気でいるようだったから、俺が相手をしてやった。ちなみに言うが、挑んできたのは向こうのほうからだぜ。俺は仕方なく応じただけだ」 「ほう、それでその二人はどうした」 「殺した。俺が両方ともな」 ここでこいつが激昂して取り乱すような仲間思いの間抜けであったなら、俺が助かる可能性も0.01%くらいはあったかもしれない。しかし鳳凰は、俺の言葉に何ら動揺の気配を見せることなく、 「嘘だな」 と冷たく言い放った。 「真庭のしのびを甘く見るな。多少度胸は据わっているようだが、おぬしがそこまで腕の立つ人間とは思えん。あの二人はもとより、真庭の里の誰を連れてきたところでおぬしごときが敵うはずがない」 「は、偏見だな。人は見かけによらないものだぞ。こう見えて案外、武術の心得はある」 余裕ぶって笑ってみせたが、確実に相手の言うほうが正しいだろう。 実際の忍者がどんなものなのかなど知る由もないが、俺に勝てる要素があったとしたら精々逃げ足くらいのものだろうし。 「……とはいえ、俺の力だけで殺したわけじゃないのは事実だ。実を言うとその二人は、俺が会ったときにはすでに手負いの状態だったんだよ。他の参加者と戦闘した後だったのだろうな。 そいつらから聞いた話だと、喰鮫のほうは黒神めだか、狂犬のほうは――江迎怒江とかいう奴とやりあった後だと言っていたな。おかげで俺でも楽に殺すことができたぜ。俺が言うのもなんだが、まあお気の毒さまだな」 「…………」 「その証拠に――と言えるほどのものじゃないが、俺の荷物を見てみるといい。お前の仲間から奪い取ったぶん、通常より支給品の数が多いのがわかるはずだ」 そう言って、俺のすぐ傍に落ちている自分のデイパックを顎でしゃくってみせる。 こいつの仲間を殺した証拠にはならないにしても、「戦利品」の多さを示してやることで俺の実力について誤解を与えてやることくらいはできるかもしれない。 誤解は多ければ多いほどいい。 「…………」 鳳凰はしばらく疑わしそうな目でこちらを見ていたが、やがて「ふむ」とうなずき、 「そうだな……おぬしの言うことはどうにもあてにならんようだから、先に『視て』おくとするか」 などと言い、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。 そのままデイパックを拾うかと思ったそのとき、鳳凰は俺の脇腹あたり、つまり先ほど銃弾を撃ち込んだ部分を、右のかかとで思いきり踏みつけてきた。 「ぐはぁ…………っ!!」 せっかく麻痺しかけていた痛みが体内で爆発する。いや、本当に腹の中身が爆発したかと思った。内臓がすべて消し飛んだと言われても今なら信じてしまうかもしれない。 傷口からさらに血が溢れ出る。頭の中では絶叫しながらのたうち回っているつもりなのだが、実際には完全に息が詰まり、指一本すらも動かせなかった。 気を失わなかったのは見事だと言う外ない。俺でなく、こいつの技術がだ。 「重ねて言うが、妙な動きはするな」 念を押すように言って、鳳凰は左手の拳銃を懐にしまい、今度こそデイパックを拾い上げる。そして動けない俺をそれでも警戒するように、そのまま数歩ほど後ろに下がった。 すぐに中身を改めるかと思いきやそうはせず、なぜか左手でデイパックをつかんだまま静かに瞑目する。何かを念じているようにも見えるが、いったい何をしている? 隙だらけに見えるが、俺への警戒は解いていないのだろう。 未だ呼吸すらできない俺は、それをただ見ていることしかできない。 「――ほう、鑢七実と会ったか。あの化物と二度も顔を合わせて二度とも逃げおおせるとは大した健脚だな……七実の隣にいる刺青顔の少年は何者だ? まさかあの女に協力者がいるとでもいうのか? 随分な命知らずだな」 今度は俺のほうが虚を突かれる番だった。 さっき俺がやったような、断片的な情報から事実を推察するようなテクニックとは違う、事実そのものを知っていないとわからないはずの情報をこいつは今、口にした。 「なるほど、狂犬と喰鮫の所有物を得たというのは真実のようだ。しかし殺したというのはやはり嘘か。死体の傍らに放置されていたのをいいことに拾っただけのことを、よくもまあ『奪い取った』などと。礼儀作法を学ぶべきは、どうやらおぬしの側のようだな」 「…………」 ぐうの音も出ないとはこのことだった。何だこれは? 俺の記憶でも読んでいるのか? いや、こいつがデイパックに触れたときから語り始めたことから察するに、俺の記憶というよりは「俺の所有物の記憶」を読み取るような能力をこいつは持っているのかもしれない。 いわゆるサイコメトリーとかいうやつだ。 この手の超能力や心霊術の類は、大半がトリックを用いているだけの偽者と相場が決まっているものだが(俺も似たようなものだが)、俺の目の前にいるこいつは、まさか本物だとでも言うのか? 「……はっ、喰鮫や狂犬はおろか、まだ誰一人として殺してなどいないではないか。女子供にすら逃げの一辺倒とは大したものだ。武術の心得が聞いて呆れる」 俺は死刑宣告を受けた気分だった。 間接的にとはいえ俺のこれまでの行動をこれほど明確に読み取れるというのは、安易な嘘をついても逆効果にしかならないと宣告されたようなものだ。自分に虚言が通用しないというあれはハッタリでも何でもなく、ただの事実だったということか。 俺の処世術である「騙し」は、この時点でほぼこいつに殺されたも同然だった。 「嘘と騙しはしのびの常道。しかし下手な嘘ほど己の首を絞めるものはない。相手を騙しぬいてこそ嘘は嘘として価値を持つ。おぬしのやったことは、己の寿命を無意味に縮めたのと同じこと」 俺は言い返せない。 「つい数刻前にも、我を嘘で縛ろうと試みた男がいたな。だがそいつの辿った末路といえば、己の得物で勝手に自滅した上に我にかけた嘘も自ら無に返すという、救いようもないほどに無様な最期だった。 あの男がもう少し格調の高い嘘吐きであったなら、死した後でもなお、我に呪縛を遺すくらいのことはできたであろうに」 なるほど、最初にこいつが言っていた「痛い目」というのは多分そのことだろう。 こいつが他の誰かに騙されたばかりだった、というのも俺にとっては不運だったかもしれない。そうでなければこいつは俺に対してここまで警戒していなかっただろうし、いきなり発砲されるということも多分なかっただろう。 誰かは知らんが余計なことをしてくれたものだ。どうせ騙すなら最後まで責任を持って騙しきれ。 「どうやらこのまま尋問を続けても、おぬしの口からまともな真実は聞けぬようだな」 ひと通り記憶を読み終えたのか、鳳凰はデイパックを放り捨てる。 「しかし――この状況においてもなお虚言を吐き続けることのできるその精神だけは評価に値するといえよう。このまま殺しても構わんが、興が乗った。おぬしが口を開ける間に、少々試させてもらうとしよう」 俺に見せ付けるように鳳凰が右腕を構える。ただの人間の腕なのに、俺はそれに肉食獣の牙のような凶々しさを感じた。 「おぬしがこれ以上、嘘を吐くことを諦めて偽りなく我の質問に答えるというなら、これ以上苦痛を与えず、一思いに殺してやってもよい。 しかしあくまで嘘を吐き続けることを選ぶというのであれば、我はこの右腕でおぬしを死なぬ程度に喰らい続ける。おぬしの命が尽きるのが先か、はたまた精神が尽きるのが先か、ここで試してみようではないか」 「…………」 よくわからんが勝手に何か始めやがった。 何が「興が乗った」だ。今までの会話のどこに興が乗る要素があったというのか。そんなものに乗せた覚えはないぞ。 やはりこいつも狂人か。 しかしまあ、「嘘をつき続ける精神」とは随分と高く買われたものだ。こんなもの評価どころか非難するにも値しない、ただの悪癖だというのに。 俺は嘘を吐くことに何のこだわりもない。皮膚呼吸をするように嘘を吐く俺だが、もしここで命が助かるというならその皮膚呼吸すら止めることも厭わないつもりだ。 この男が本物のしのびだというなら、拷問の作法にも精通していることだろう。俺のちっぽけな精神など、ものの数分で崩壊してしまうに違いない。 俺にはもう、この男を騙すことはできない。悔しいがこいつの言うとおり、騙しきれない嘘に価値などない。そもそも俺は、嘘に価値があるとも思っていないが。 だから俺が今ここですべきことは、素直に許しを請うことだろう。恥も矜持もすべて捨て去って、質問には正直に答えるから命だけは助けてくれと、あるいは一思いに殺してくれと懇願する。それが俺にできる唯一にして最善のことであるはずだった。 億にひとつでも助かる可能性があるのなら、俺は迷わずそうすることを選ぶ。 足を潰され、嘘を封じられ、もはや一般人以下に成りさがった俺にできることは、それくらいしか残されていない。 少なくとも、この期に及んでなお意固地になって無意味な嘘を重ねるなど、考えうる限り最悪の手段だろう。寿命が少し延びる代わりに、地獄の苦痛を味わわされるだけだ。 俺が仕事で使うもうひとつの得意技である「偽者の怪異」も、ここではまず役に立たない。 指で突く隙を与えてくれないのは当然のこと、怪異でこいつに打ち勝つためにはこいつにとって有効な怪異を選んで使用する必要がある。今からそれを即興で用意しろというのは無理な話だ。 阿良々木暦の妹を刺すのに使った囲い火蜂も、こいつには通用するまい。相手は畏れ多くも、神獣の名を名乗っているような奴だ。 蜂が鳳凰に効くものか。 「…………」 出血で意識が朦朧としてくる。痛みはぼんやりとしか感じないのに、地面の冷たさだけはやたらはっきりと感じることができた。 かすんだ視界の中、鳳凰が近づいてくるのが見える。一歩一歩、まるでスローモーションのようにゆっくりと。 命乞いをするなら今のうちだ。ぼやぼやしていると、本当に口も開けない状態にされてしまうかもしれない。 「……ああ、そういえば」 繰り返すが、俺は嘘を吐くことに何のこだわりもない。矜持も、思想も、信念も、嘘に対して掲げられるものは何ひとつとして持ち合わせてはいない。 しかし。 それでも。 だからこそ。 俺はこいつの思惑通りになるのが嫌だった。撃たれたことも踏みつけられたこともどうでもいいし、これから殺されることも仕方がないと思っている。 ただ、俺の嘘吐きとしての属性をこいつに完全破壊されるのが我慢ならなかった。 「興が乗った」など、そんな思いつきの暇つぶし程度の理由で俺から嘘を奪おうとしているこいつの傲慢さが許せなかった。 こいつにはせめて一矢報いてやらないと気が済まない。俺はそんな俺らしくもないことを思った。 俺にも詐欺師としてのプライドというものが、もしかしたらあったのかもしれない。 死が眼前にまで迫ってきているというのに、俺はそれが少しだけ愉快だった。 「――鳳凰というと鳥の怪異として有名だが、元ネタである中国の伝承によると、キメラみたいに何種類かの動物の部位が繋ぎ合わさった姿をしているものらしいな…… 時代によって違ったりもするようだが、元々はたしか嘴が鶏で、顎は燕だったか? 他にも蛇やら亀やら混ざっていたような気がするが、よく覚えてねえな……」 俺まであと三、四歩ほどの距離で、鳳凰の足がぴたりと止まる。 「……何の話だ?」 「いや、別にどうでもいい話さ……ただ、鳳凰ってのはたしかに神の鳥ではあるが、そう聞くと案外、普通のものの寄せ集めでしかないように思えてしまうものだな」 あまりに脈絡のない俺の言葉に気がそれたのか、鳳凰の注意がほんの一瞬だけおろそかになる。 その一瞬を俺は見逃さなかった。 「だから鳳凰、お前に蜂は効かないだろうが――」 かちり。 脇腹を撃たれてからずっと身体の下で抱え込むようにしていた手で安全装置を外す。 そして「それ」を握った右手を勢いよく腹の下から引き抜き、 「――鶏よりも燕よりも強靭で獰猛な、鷲ならどうかという話だ」 俺に残されていた唯一の武器、デザートイーグルを鳳凰めがけて発砲した。 放たれた弾丸は、驚愕に目を見開く鳳凰の顔面、その眉間のど真ん中へと寸分狂わず命中し、そのまま頭部の上半分を木っ端微塵に吹き飛ばした。 ◆ ◆ ◆ というのはもちろん嘘で、俺の撃った弾丸は鳳凰にかすりもしなかった。油断はしていてもさすがは忍者、俺が拳銃を取り出した時にはすでに回避行動をとっていた。まあ避けなくとも当たらなかっただろうが。 非力な者がデザートイーグルを撃つと反動で肩が外れるとか後ろへ吹き飛ばされるとか未だに言われることもあるようだが、実際には撃ち方さえ間違わなければ女子供でも撃つことはできるらしい。 しかし今の俺の撃ち方は、うつ伏せのまま片手だけで、しかも無理に腕を伸ばした状態で発砲するという大口径拳銃の扱い方としてはおよそ最悪に近い形だったため、発砲の反動は覿面に俺の右腕へとダメージを与えていた。 肩が外れたかどうかはわからないが、筋くらいは痛めたかもしれない。ついでに耳栓なしで撃ったせいで耳が痛い。 俺が拳銃を持っていたことがよっぽど意外だったのか、鳳凰は反射的にといった感じで懐から拳銃を取り出し、俺に狙いを定める。 引き金が引かれる前に俺はせめてもの抵抗にと、もう片方の手で握っていたスマートフォンに拳銃の台尻を思い切り叩き下ろし、粉々に破壊した。 抵抗というにはあまりに子供じみているが、こいつに使われるくらいならこうしたほうがましだ。右腕に更なる激痛が走ったが、そんなことはもう気にならない。 ついでにこのデザートイーグルを可能な限り遠くへ放り投げてやろうかと思ったが、さすがにそこまでの猶予を与えてはくれなかった。 軽い発砲音とともに、鳳凰の拳銃が火を噴く。俺のときとは違って、弾丸は俺の方めがけてまっすぐに飛び、正確に頭部を撃ちぬいた。 暗転していく意識の中で、俺は何かをやりきったかのような満足感に浸っていた。状況的に言えば悪あがきに失敗してとどめを刺されただけのことだろうが、鳳凰にとっては「思わず殺してしまった」形だろうから、俺としてはしてやったりな気分だった。 負け惜しみにしか聞こえないだろうが、俺の銃撃がこいつに命中しなかったことも良かったと思っている。 他人の生き死にに何かを感じるような心が残っている俺ではないが、自分の手で直接誰かを殺すのはなんとなく嫌だった。 殺人者の肩書きを得るのが。 詐欺師という汚名を、殺人者というくだらない汚名で上書きするのが嫌だった。 俺は俺のまま、詐欺師のままで死にたかった。だからこのバトルロワイアルで一人も殺さないまま死ねたことに、俺は誇りすら感じていた。 こんなつまらないことに誇りを感じる自分の小ささに正直嫌気がさしたが、どうせ死の間際だ。何に誇りを感じてもいいじゃないか。 やるべきことをやったと言い切ることはできないが、今やりたいことはすべてやった。 安らかに死ぬにはそれで十分だ。 最後に走馬燈でも見ようかと思ったが、今までに騙してきた相手の恨み顔しか見える気がしないのでやめた。見ようと思って見れるものでもないだろうが。 だから代わりに戦場ヶ原ひたぎのことを思い浮かべる。 あの女が今も無事どうかはわからない。だが、俺はあいつが最後まで生き残れると信じている。俺がいなくても、きっと立派にやっていけるだろう――と、口に出したら歯が浮きそうな嘘を考えている自分がいることに安堵し、俺の意識は今度こそ闇へと落ちる。 地獄の沙汰も金次第と言う。貯金のない俺だから、江迎のやつから金をいくらかせしめておいて本当によかったと、あの頭のおかしい女に俺は少しだけ感謝した。 【貝木泥舟@物語シリーズ 死亡】 ◇ ◇ 後日談にもオチにもまだまだ早いが、もう少しだけ俺の一人称を続けさせてもらう。実は生きていたというオチではないから安心していい。 もう死んだのだからあとはナレーションにでもまかせてさっさと逝けと罵声が飛んできそうだが、残念ながらこの回では俺の行動に関する描写はすべて俺の視点から語ると決めている。たとえ神にもその役割を譲ってやる気はない。 なに、ほんの少し補足を入れるだけだ。 すぐに済むから、しばしご清聴願いたい。 鳳凰に脇腹を撃たれた後、俺がずっと両手で腹を抱えるようにしていたのは言うまでもなくデザートイーグルを取り出すタイミングを窺っていたからだが、実はもうひとつ理由がある。 俺が最後に銃の台尻で粉々に破壊したスマートフォン、あれを身体の下で操作するためだった。 俺が動けないがゆえの油断だったのか、それとも俺のことを不必要に警戒しすぎていたからなのか、鳳凰が俺に対して身体検査を一切しようとしなかったのは、俺にとって最大の幸運だったと言える。 もしされていたら、悪あがきの手段さえ完全に奪われていただろうからな。 で、スマートフォンを使って何をしていたかというと、玖渚が作ったあの掲示板に書き込みをしようとしていた。 ある意味ダイイングメッセージのようなものだ。ネット掲示板にダイイングメッセージ、なんとも現代的でいい感じじゃないか。 ただし身体の下で操作していたわけだから、当然画面もボタンも見えない完全ブラインドタッチだったので、ちゃんと文字が打てていたかどうかわからないし、そもそも書き込みができていたのかどうかも確認できていない。 これで投稿できていなかったら間抜けすぎる。 誤字だらけなのは仕方ないとして、最低でも投稿できていると信じたい。 まあ、あんな書き込みをしたところであいつにとって致命的となるわけでもないし、内容が信用されるとも限らない。むしろ無駄になる確率のほうが高いだろう。 だからこれもただの悪あがきだ。自己満足と言い換えてもいい。 何の意味も持たなくとも一向に構わない。 さてさて、死人があまりでしゃばるのも問題なので、言うことも言ったし今度こそ退場させてもらうとしよう。 これ以後は正真正銘、金輪際俺の出番が来ることはない――なんて俺がこんなことを言うと、ひょっとしたら嘘になるかもしれないけどな。 2:目撃情報スレ 4 名前:名無しさん 投稿日:1日目 夕方 ID:IJTLNUUEO E7で真庭法王という男におそわれた拳銃を持ている。危険 鳥のよな福をきている、ものの乃記憶を読めるやしい 黒髪めだかと組んん出いる可能性あり 付近にいるのは注意されたしい ◇ ◇ 「…………不愉快だ」 頭を撃ちぬかれた貝木泥舟の死体を見下ろしながら、鳳凰は憎々しげに呟いた。 その死に顔がなぜか満足げなものだったことも、鳳凰の苛立ちに拍車をかける。 「まさかこんな、口先だけの大法螺吹きにまたも一杯食わされるとは、例えようもなく不愉快だ……しかし、我のほうにも慢心があったことは認めざるを得まい。猛省せねばなるまいな」 鳳凰としては、まさか相手も『銃』を持っているとは思わなかったのだろう。 鳳凰の世界における『銃』が極めて特殊なものであるがゆえに、相手が同じ武器を所持しているという可能性を予想できなかった。 さらにその武器がいかに強力なものかを知っているがゆえに冷静さを欠き、急所を外す余裕もなく、反射的に撃ち殺してしまった。 あえて言うならもうひとつ、鳳凰が拳銃の存在を予想できなかった理由として、貝木の所有物に対する先入観が挙げられる。 忍法記録辿りによる先入観。 鳳凰の左手に宿る忍法、記録辿り。それは物に残された残留思念を読み取るものであり、当然のこととして読み取る対象物に関わりの深いものの記録しか読むことができない。 例えば貝木のデイパックであるなら、それをずっと所有していた貝木自身の行動の記録。あるいは、デイパックから出し入れされた物の記録。 もしデザートイーグルが貝木のデイパックに入っていた支給品だったとしたら、あるいは一度でもデイパックの中にしまわれていたとしたら、その記録を読み取った時点で十中八九、拳銃の存在には気付けていただろう。 しかしデザートイーグルが取り出されたのは、真庭狂犬のデイパックの中からだった。 加えて貝木はそれを自分のデイパックにしまうことなく、スーツの懐に入れて携行していた。 つまり鳳凰にとって不運なことに、そして貝木にとって幸運なことに、デザートイーグルに関する記録は貝木のデイパックにとって対象外の記録だったのである。 スマートフォンについても同様の理由だ。ただしこっちは、存在が読めていたところで何に使うものなのか鳳凰にはわからなかっただろうが。 鳳凰が貝木に対し身体検査をしなかったのは、むしろそれが原因だったのかもしれない。 なまじ記録を読むことができたことで、「貝木の所有物はすべてデイパックの中に入っている」という先入観を作ってしまったということ。 そこは完全に、鳳凰の油断であり慢心だった。 「……まあよい。生き残ったのが我であるという事実に変わりはない――それに、随分な収穫もあったことだしな」 鳳凰は貝木の死体を足で仰向けに転がすと、右手に握られたままの拳銃を力任せにむしり取る。 それを確認するようにしばらく眺めてから、近くの壁に向けておもむろに銃を構え、発砲した。 強烈な銃声とともに、弾丸は決して薄くない壁を優々と貫通する。銃声の残響があたりにこだまする中、鳳凰は彼にしては珍しく感嘆したような声を出した。 「素晴らしい……炎刀と比べて連射性こそやや劣るが、威力のほうは比べ物にならんな。これが手に入ったというだけで、わざわざこの不吉な男のもとを訪れた甲斐があったというものだ」 炎刀・銃の上位互換に当たる武器、鳳凰はデザートイーグルをそんなふうに解釈し、それを炎刀とともに懐へしまう。 その際、記録辿りでデザートイーグルの記録を読むことも忘れなかったが、先ほど貝木が撃った以外ではまだ一度も使われていない、という事実しかわからなかった。 さらに傍らへ放り捨ててあった貝木のデイパックを改めて拾い上げ、その中身を検分する。 基本の支給品以外では、日本刀、金槌、巨大な棍棒、予備の弾丸、金属で作られた諸々の道具、そして―― 「これが……誠刀・銓?」 説明書きを読んだだけでは疑わしかったが、記録辿りでその鍔と柄しかない刀を読んだことで「それ」が「そう」であることを確信する。 変体刀十二本がうち一振り、「誠実さ」に重きを置いて作られた日本刀、誠刀・銓。 炎刀の類似品だけでなく、誠刀までここで手に入るとは……。 「しかしこれは、戦闘に使える代物ではないな……当然、これが本物の完成形変体刀である以上、真庭の里の復興のため所有しておくことに変わりはないがな」 そう言って、誠刀を自分のデイパックの中へ丁重に納める。 さらにもうひとつ、鳳凰にとって不可解なものがあった。先端に針のついた透明の容器に入れられた、何かの薬品のような怪しい液体。 幸いそれも、記録辿りによって用途を確認することに成功した。ただしその内容は、投与しただけで「天才」を「凡人」に改変してしまうという、実に眉唾くさい代物だったが。 貝木の持ち物のうち、不要と思しきもの(地図や名簿など)を除いたすべて支給品を自分のデイパックへ移し変え、さらに今更ながら貝木の死体を検分する。しかし見つかったのは懐の中に入っていた紙幣と硬貨くらいで、めぼしいものは発見できなかった。 地面に散らばっているスマートフォンの残骸にも少し目を向けたが、それは無視しておくことに決めた。あの状況で優先して破壊するほどのものだったのかと少し気にはなったが。 念のため、貝木の身に着けている衣服などに対しても記録辿りを行使してみたが、得られた情報はデイパックを読んだときと大差なかった。 ただひとつ、少しだけ不可解に思うことがあった。 あの橙色の怪物と対峙する前、破壊される直前の建物と、その付近にあった自動車の記録を読み取ったときにも感じた違和感。 と言うよりは、この殺し合いの中において忍法記録辿りを行使するたびに必ず、その違和感はあった。 この場に用意されている物からは、すべて「新しい記録」しか読み取ることができない。 デイパックを含めすべての支給品、建物、さらに衣服の類ですら、その性質や用途はおおまかに読み取ることはできるものの、ここ数日以前の記録がまったく存在しない。 たった今読み取った誠刀・銓にしてもそうだ。それが本物の完成形変体刀であるということは理解できるのに、戦国の時代を渡り歩いたはずのその刀から、何の歴史も辿ることができない。 まるで。 まるでここに存在しているすべてのものが、例外なくこの殺し合いのためだけに作り出されたものであるかのように。 「…………やめておこう。これ以上、余計なことを考えるのは」 鳳凰はデイパックを静かに地面に置くと、瞑想するかのように両の目を閉じる。 「いらぬ雑念に囚われているから、こんな口先だけの輩につけこまれるのだ――我はもうこの先、誰の虚言にも踊らされぬ。迷いも油断も慢心も、この場ですべて消して失せよう」 そう言うと鳳凰は、右腕を天へと向けて高々と振り上げる。 そして竹取山で匂宮出夢の死体にしたのと同じように、その右腕を貝木の死体めがけて力の限り振りかざした。 《一喰い》(イーティングワン)。 破壊というよりは、それは爆砕。 力の制御が利くようになったはずのその右腕は、しかし出夢の死体のときより荒々しく、そして圧倒的に貝木泥舟の死体を爆砕した。 血も肉も骨も、すべてを霧散させんばかりの一撃。 デザートイーグルの威力など、まるで霞んでしまうような人外の破壊力。 地面深くまでめり込んだ右腕を引き抜き、血振りをするようにぶん、と振るう。 先ほどまで貝木がいたはずの場所には、千々に弾け飛んだ肉片と、申し訳程度に破壊を免れた貝木の身体、そして重機で掘削されたかのようにざっくりと抉られたアスファルトが残されていた。 「――これより我に迷いなし。ここに存在する全ての者を皆殺しにし、我の悲願を成就させる。それこそが我の進むべき唯一の道」 そのためなら我は、奈落にでも堕ちよう。 そう宣言した鳳凰の目には、もはやこの世のものとは思えないほどの深い覚悟が宿っていた。 闇のように深く、底知れない覚悟が。 「随分と時間を食ってしまったな……まあ急ぐ道理もあるまい。ゆっくりと確実に、一人ずつ消していけばよいだけのこと。派手に動いて周りに警戒されるのも好ましくない」 言いながらデイパックの中に手を差し入れる。 すでに所持品の数が尋常ではなくなってきているが、それがマイナスになるような真庭鳳凰ではない。もたつく様子もなく、すぐに目的のものを中から取り出す。 数刻前に西東天から鳳凰の手に渡った支給品、首輪探知機。 現在の区域であるE-7内に反応はないが、ここからF-7までは目と鼻の先だ。境界をまたげば、また誰かの名前を見つけることができるやも知れぬ。ついでに図書館とかいう場所を探索しておくのもよいか―― そんなふうに行動の指針を決め、首輪探知機を片手に歩き出そうとする鳳凰。 が、そこで何かを思い出したようにはたと足を止める。 「そういえば、これをまだ調べていなかったな」 そう言って取り出したのは、鳳凰の元々の支給品であるノートパソコンだった。 何に使うものかすら不明だったがゆえに調べることすらせず放置していたが、西東天がそれを見た際の発言からかなり利便性の高い道具であることは想像できた。 使い方さえ把握できれば、これも強力な武器となるかもしれない。 「どれ、読んでみるとするか……可能な限り、念入りにな」 もはやルーチンワークのような動作で、鳳凰はノートパソコンを左手でつかみ瞑目する。 それに残された記録を余すところなく掬い上げようと、左手に意識を集中させる。 深く、深く、深く。 記憶の残滓の中へ、己の意識を潜行させる。 数十秒か、あるいは数分か。それなりに長い時間をかけて、鳳凰はそれの記録を読み取った。 「…………なるほど」 しばらくののち、記録を辿り終えた鳳凰は閉じていた目を開き、静かにそう呟く。 そしてそのままノートパソコンを開くことも起動することもせず、それを自分のデイパックの中へそっとしまいこんだ。 「さっぱり分からん」 【1日目/夕方/E-7】 【真庭鳳凰@刀語】 [状態]身体的疲労(小)、精神的疲労(小)、左腕負傷 [装備]炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、匂宮出夢の右腕(命結びにより) [道具]支給品一式×6(うち一つは食料と水なし)、名簿、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、 首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、鎌@めだかボックス、 薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明、 誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、 「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、 マンガ(複数)@不明、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、 食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」 (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします) [思考] 基本:優勝し、真庭の里を復興する 1:F-7へ移動し、他の参加者がいたら殺しに向かう 2:虚刀流を見つけたら名簿を渡す 3:余計な迷いは捨て、目的だけに専念する 4:ノートパソコンや拡声器については保留 [備考] ※時系列は死亡後です。 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません ※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。 ※右腕に対する恐怖心を克服しました。が、今後、何かのきっかけで異常をきたす可能性は残ってます。 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。 拍手喝采歌合 時系列順 ×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ 拍手喝采歌合 投下順 ×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ 友情の手前、憎しみの途中 貝木泥舟 GAME OVER Let Loose(Red Loser) 真庭鳳凰 零崎舞織の暴走
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【戯言シリーズからの支給品】 【人間シリーズからの支給品】 【世界シリーズからの支給品】 【新本格魔法少女りすかからの支給品】 【刀語からの支給品】 【物語シリーズからの支給品】 【めだかボックスからの支給品】 【現実からの支給品】 【オリジナルの支給品】
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戯言語 ◆VxAX.uhVsM 0 え?始まってたのか。 1 僕が目を覚めたのはいつもの部屋だった。 「あれ…?夢オチ?」 そんな訳はない。 目の前で起きた事を思い出せば、それが現実であった事が分かるだろう。 「人が死ぬのを見る事くらい、覚悟してたけどね」 現に、大事な人間が何人も死ぬところを見てきた。 姫ちゃん、巫女子ちゃん、萌太くん。 まだまだ数え切れないほど死んだところを見てきた。 それでも、くぐりぬけてきた。 他人を犠牲にして。 「戯言だけどね」 うん、ここにいても仕方ない。 知り合いがいるかもしれないから動いた方がいいからな。 せめて潤さんとかがいればな……。 「ま、どうなるかはわからないし」 とりあえず、部屋の外に出る。 「うん、そっくりだけど…違うな」 外に出たら分かったが、全然違う。 周りの景色がまったくと言っていいほど違っていた。 「まあ、別にただのアパートなんだけどね」 そして、階段を下りるとそこには 女の子がいた。 2 さて、目の前に女の子がいる。 たたかう にげる さらう ⇒ はなしかける うん、さすがにこんな状況で女の子を置いて行くのは人間がなってない。 しかし、僕は年上の人が好きなんだ。 決してロリコンじゃない。 でもとりえず声はかけないとな。 「ねぇ、そこの君、ちょっといい?」 少女はこちらに気付いたようだ。 少女は振り返り、こう言った。 「話しかけないでください、あなたの事が嫌いです」 なんということだ。 まさかいきなりこんな事を言われるとは。 というか初対面で嫌いって。 どういうことだ。 「うん、そうか分かった」 よし、この子は無視しておこう。 なんでこの結論に至ったかなんて言うまでもないだろう。 「ちょっと待ってください!」 さっきの少女が声をかけてきた。 「……」 「なんであのままどこかに行こうとするんですか!主人公的にそれはないでしょう!」 いや、主人公って。メタ発言じゃないか。 なんて危なっかしい子供だよ。 「とにかく!こんなにかわいい子供を無視するって!どういう事ですか!」 おいおい、どれだけ自惚れてんだよこいつ。 相手するのがめんどくさくなってきた。 もう逃げようかな? そう思い始めていたところで。 「さて、話を元に戻しましょう」 戻されたよ。 これじゃあ逃げるわけにもいかない。 「あなたは、この状況を把握してますか?」 無理だろう。 まず把握できる事が一つもない。 「まあ、そうでしょうね私もわかりません」 当たり前だ。 小学生くらいの子供に分かってたまるか。 というかこの子が分かって僕がわからなかったら僕はどれだけ知能が低いんだよ。 「まあ、私は探したい人がいるので、協力してくれませんか?」 「その人がいるという確証でも?」 「こういう面倒な事には必ずいるんですよ」 面倒なこと…ね。 あながち、僕と似たような人かもしれない。 でも、似ている人間はいてもそのままそっくりな人間はいない。 その探している人については知らないが、手伝ってやるか。 「ああ、分かったよ。手伝ってやるよ」 「本当ですか!?」 やっと彼女がにっこりとした笑顔を見せた。 ああ、この笑顔、あいつそっくりだな。 僕は、もし友がいて死んでしまったら……。 どうするんだ? もし、あいつが死んでしまったら?でも、いないかもしれない。 分からない、分からない、分からない。 …戯言だけどね。 「よし、じゃあ行こうか」 「あ、まだ自己紹介がまだでしたね。私は八九寺真宵です」 いきなり前振りもなくかよ。 まあ自己紹介に前振りなんかいらないけど。 「真宵ちゃんか、僕はいーちゃんとよく呼ばれている」 「あれ?本名は何なんですか?」 「……聞くな」 「え?教えてくださいよ」 しつこいな… 「ねぇ、戯言さん?」 「こっちにはいろいろ事情があるんだよ」 「ほう、過去のなんとかというやつですか」 そんなことわざあった覚えはない。 「過去なんて捨てちゃいましょうよ!」 「じゃあ、もし名前を知ったら死ぬなんて事があったら?」 「……え?」 「そう言うことだ。忘れてくれ」 「いえ、問題ないですよ」 は?問題ない? 死ぬかもしれないのに? 「私はもう死んでますから」 え? 今何て言った?死んでいる? あ、あり得るはずがない。 「さあ!過去なんて捨てて!私に教えちゃってください!」 は? 過去を捨てて? 何を言ってるんだこいつは。 過去を捨てろ? 何を言ってんだよ。 ふざけるな! 「黙れっ!!!」 八九寺が黙りこんでしまった。 やってしまった。 ……ごめん。 いまさら言っても遅いだろうがとりあえず謝るのが先だろう。 「問題ないですよ」 しまったな、つい頭に血が。 ……ていうかこれくらいでな。 落ち着きがない証拠だ。 「じゃあ、今度こそ行こうか」 「はい…」 【一日目/深夜/H-6骨董アパート前】 【戯言遣い@戯言シリーズ】 [状態]落ち着きがない、八九寺に対する苛立ち。 [装備]なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本:殺し合いをする気はないし、あの爺さんをどうにかする気もない。 1:八九寺と行動。 ?:友が死んだら…? [備考] ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です。 【八九寺真宵@物語シリーズ】 [状態]戯言遣いに対する恐怖 [装備]なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本:殺し合いをする気はない。 1:戯言遣いと行動、でも怖い…。 2:阿良々木暦の探す。 [備考] ※傾物語終了後からの参戦です。 今、再び語られる物語 時系列順 ランドセルランドの虐殺劇 今、再び語られる物語 投下順 ランドセルランドの虐殺劇 0 はじまりはじまり 戯言遣い 一寸先は口!? START 八九寺真宵 一寸先は口!?
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【性別】女 【口調】一人称:私 二人称・三人称:貴様、○○同級生、○○二or三年生、 【性格】強引にして豪快だが、常に他人のことを考えて行動している 【能力】 「完成(ジ・エンド)」 めだかの持つ異常性(アブノーマル)。相手の持つ能力を相手以上の完成度まで高めた上で修得する才能。 めだかはこの能力により、様々な技術・才能・異常性を身につけている。 乱神モード 善吉いわく「黒神めだかの真骨頂その4」。極限まで昂った怒りによって引き起こされる、全ての戦闘能力を解放した暴走モード。 反射神経 高千穂仕種に勝利するまでは、彼女は反射神経を持っていなかった(以降もオフにすることが可能である)。 この特性は彼女の学習能力の高さにも一役買っており、同時に痛覚を無視した無茶な動作を行うことも可能としている。 【備考】 98%という驚異的な支持率でそのポストについた、箱庭学園第98代生徒会長。 才能区分は異常(アブノーマル)。容姿端麗、文武両道、実家は世界経済を担う大金持ちと、全てにおいて「完璧」な神童である。 敵味方の区別なく人間そのものを愛しており、自らを「見知らぬ他人のために生まれてきた」存在とみなし、それを信条としている。 一方その高すぎる能力故に、「私の心配をしてくれるのは今や善吉くらいのもの」と語っており、彼に対して単なる友人以上の好意と信頼を寄せている。 それゆえに本編にて一度善吉が死亡した際には一度は制御できたはずの乱神化を引き起こした。 また唯一苦手としているのが動物の扱い。本人は動物が大好きなのだが、やはりその高すぎる能力故に動物からは怖れられており、常に逃げられてしまう。 以下、バトルロワイアルにおけるネタバレを含む 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 黒神めだかの本ロワにおける動向 初登場話 [[]] 登場話数 スタンス 現在状況 現データ [[]] キャラとの関係(最新話時点) キャラ名 関係 呼び方 解説 初遭遇話 [[]]
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無名(夢影) ◆aOl4/e3TgA ――駆ける、不忍。 その速度は完全に人間のそれを超えており、誰が見たところでまともな肉体をしていないことを窺わせる程のものだ。 これだけの力を有する人間が、殺し合いに積極的になっているという事実は、敬虔な一般人からすれば由々しき事態だろう。 そんな彼が、今もなお一人の戦果すら挙げられていないのは、このバトルロワイアルの妙、というべきか。 『主人公』と呼ばれし少女と二度も交戦し、敗北することなく逃げ延びているのは流石と言えるが、彼にそんな誉め言葉を贈ったところで――いや、そもそも彼にとっては誉め言葉ですらないのかもしれないが――、彼が喜んだりすることは有り得ないだろう。 不忍の仮面で面を隠匿し。 心は鉄(くろがね)の仮面で凍らせる。 静寂と苛烈を両立させる凄腕の暗殺者、それが左右田右衛門左衛門という男だ。 彼の足が向かう方向は、他の参加者の心臓ある場所ではない。 確かに参加者を減らすことも彼の目的の一つではあるのだが、それと比較すら出来ないほどに大きな目的が、存在している。 ――否。 正しくは、存在して《いた》。 その真実は、主君の命ずるがままに凄腕のしのびですらも抹殺してきた有能な暗殺者でさえも、察することの叶わぬものであった。 察することが叶わない程度なら、どれほど良かったろうか。 無感情を徹頭徹尾貫く不忍の暗殺者。 これまで決して大きな失敗を犯さずに疾駆してきたその足は、《策士》の少女が告げた残酷なる真実の前に、静止する。 静止して、仮面の男は呆然と空を見上げた。 「――――……姫さま?」 落ち着け。 落ち着かなければ、自分は戦いを続けられなくなる。 そんなことはあってはならない。 そんなことは、《あの方》への冒涜だ。 生きる意味を与えてくれたあの姫さまを、貶めるなど言語道断。 此の世に存在するどんな罪状よりも、いっとう罪深い十字架だ。 ――だが。 だが、それを評価する者はもう。 此の常世には、亡い。 「……………、」 言葉を失う。 言葉を喪う。 童子であろうと冷徹に殺す右衛門左衛門が、動きを止めていた。 そんな失態を貶す者は、いない。 二度と自分の前には顕れない。 誰かに責任を押し付けるような真似をしようにも――、この失態の責任はすべて、守りきれなかった自分にある。 自分がもしも、もっと迅速に行動できていたのならば。 参加者の殲滅など、考えるべきではなかったのだ。 左右田右衛門左衛門すら底を測り得ない怪物の跋扈する地で、第一にすべきは紛れもなく、姫さまを発見することだった。 今更悔やんでも、もうなにも戻りはしない。 右衛門左衛門は一つの大切なものを、されど彼という存在の全てを費やしても比類し得ぬ価値あるものを、取りこぼしてしまった。 ――――ぐらり、とその肉体が揺れる。 それでも、彼は忠義を誓いし有能なる否定の姫君の臣。 みっともない醜態を晒す無様はせずに、静かに頭を垂れる。 そんな程度で許して貰える道理などないが。 開き直るなんて真似は、どうしても出来そうになかった。 「申し訳在りません――姫さま。わたしはあなたを、守れませんでした」 申す訳など、ある筈もない。 そんなもので自らの罪を誤魔化そうなど、笑止千万。 潔く右衛門左衛門は罪を、最も醜悪かつ甚大なる罪を認めた。 比喩抜きで、銀の十字架に射抜かれたような感覚さえ覚えた。 だがその動揺も、彼らしい思考回路の元長続きはさせない。 とはいえ、もしも交戦の最中だったら危なかっただろう。 万全の状態でありながら、数十秒を無駄にしてしまったのだ。 戦闘時のような余裕のない状況であったなら――考えたくもない。 自分はどれだけ失態を重ねるつもりなのかと、自嘲する。 自嘲してもしきれないほどに、まるで死んだ姫がするように、自分を嘲って嘲って、卑下し続ける。 「さて」 右衛門左衛門は面に右手を軽く当てつつ、気持ちを切り替えるようにそんな短い台詞を口にした。 いや、そんなもので振り切れる訳もない。 ただ、止まっている訳にもいかない。 だから彼は立つ。自分の為すべきことを遂げるために、存在し続ける。 「このまま狗で終わる訳にもいくまい」 左右田右衛門左衛門の目的は、すぐに決定された。 姫さまの後を追う。 姫さまの死をきっかけに心機一転対主催になってみる。 姫さまが死んだ。だから殺す。 全て答えとしては下の下、地に這う虫よりもなお下劣だ。 「《願い》。そんな不確かなものに縋るなど甚だ不本意だが、仕方ない。事態が事態だ、躍らされてやるとしよう」 右衛門左衛門の選び取った回答は、全てを殺すことだった。 不知火袴が口にした言葉を、彼は忘れていない。 あの老人は確かに、願望の成就を口にした筈だ。 正直信用に値するかは怪しいものだと思っていたが、こうなっては最早選ぶ余地など他にある筈もないだろう。 果たせなかった忠義を、取り戻す。 姫さまを蘇らせて、この殺し合いより帰還する。 それで十全だ。不知火袴のような不気味な輩に躍らされるという事実にも、別段不快感を感じるようなことはなかった。 元より矜持など捨てている。 もしもこれで願いの話が虚偽だったなら、あの老人たちを根絶やしにした後に、この心臓を穿って償うしかない。 そんな終わりは恥もいいところなので、それ以前に自分の全てを捧げると誓った姫さまをこんな下劣極まる遊戯で喪うなど、あってはならないため――なんとしても、願いの話が真実であることを祈るばかりだった。 「そうと決まれば、うかうかしている暇などないな」 殺す。 冷酷非情の猟犬にでも成り果てよう。 そう思い立ち、左右田右衛門左衛門がその俊足を用いて走り去らんとした丁度その瞬間であった。 彼の研ぎ澄まされた五感が、感じ覚えのある気配を感じ取ったのだ。 それは彼にとって、間違いなく有益でないもの。 災害にも等しき再会。 再会にも等しき災害。 災禍にも等しき開花。 開花にも等しき災禍。 出会いたくなかった、出来るなら適当にのたれ死んでくれることを願っていた青年が、そこに悠然と佇んでいた。 否、佇むというよりは、《存在していた》というのが正しいだろう。 彼は人間でありながら、人間ならざる存在なのだから。 「――……不禁得」 右衛門左衛門の声は、苦笑に近かった。 自分の不運を呪うような声だった。 それを聞いた《人ならざる青年》は、 「左右田右衛門左衛門――久し振りだな」 馴れ馴れしく、手を挙げてのけた。 鑢七花。その姿形を、まさか見誤るような道理があろうか。 伝説の刀鍛冶・四季崎記紀の十二本の変体刀集めという難行を、同行者の手腕があったとはいえ異常な短期間で遂げた、奇策士の刀。 そして、右衛門左衛門に引導を渡した存在である。 全力で撃ち合い、打ち合い、その末に不忍が敗れて散った。 まさしく化け物じみた存在だと、右衛門左衛門は認識していた。 そんな奴と、よりによって折角覚悟を決めた矢先に再会するなんて。 どれほど運がないのだろうなと、軽口の一つでも叩きたくなる。 「鑢七花か。黒神めだかに敗北したと聞いているが」 「――ああ、負けたよ。どんな形にしろあれはおれの負けだ」 彼のことを貶す気などない。 確かに、黒神めだかが異常な存在であることは確認できた。 二度の邂逅を経て、全くその性質を反転させていながら、肝心などこかが狂っていることは変わっていないような、そんな存在だった。 ――いや、今やそんなことはどうでもいい。 「否定姫が死んだな」 「ああ」 それだけで回答としては十分だ。 かつて目の前の男の大切なものを壊した彼が今度は喪う番とは、因果応報という四字熟語を連想させるものがあった。 眼前の刀は振るい手を喪い。 不忍の者は存在意義を喪った。 喪った者同士がこうして向かい合っている以上、どうなるかは明白だ。 七花の目は、あの時と同じだ。 十一人の手練れを歯牙にもかけずに撃破し、炎刀を装備した右衛門左衛門をも滅ぼしてのけた刀の瞳がそこにはあった。 すぐに分かった。 この刀は、最早妖刀にも等しい。 担い手を喪って、刃だけになりながらも戦い続ける、妖刀。 「不良。此方としては、貴様と激突するのは避けたいのだが」 「無理だな。おれは刀だから、そういう細かいことは考えねえよ」 右衛門左衛門の足でなら、逃げ延びることは難しくない。 七花は強いが、流石に元しのびを凌駕する超速には達していまい。 だが――、素直に逃がしてくれる気は無さそうだ。 当然。刀は斬る相手を選ぶことをしない。 故に、左右田右衛門左衛門の言葉に耳を貸す理由がない。 「おれはあんたを斬る。あんたもおれを殺せばいい。――――あの時と同じだよ、右衛門左衛門」 「――――そう、だな」 同じではない。 違う。違いすぎている。 姫を喪い、目的は忠義を果たすことから老人の甘言に頼るような惨めなものに変容してしまっている。 あの時とは違う。 「不笑。笑えんよ、鑢七花」 「そうかよ。じゃあ、おれは精々あんたの分も笑ってやる」 鑢七花が構える。 戦う準備は整ったとばかりに、有無を言う余地すらなく、構える。 右衛門左衛門も応じるように構える。 戦う準備は整っていないが、有無を挟む真似をせず、構える。 「――ただしそのころには、あんたは八つ裂きになっているだろうけどな!」 戦いの火蓋は、それを皮切りとして落とされた。 七花が掌底を打ち込まんとするのを、右衛門左衛門は持ち前の身のこなしでかわしつつ、メスの一本を彼の額めがけて投擲する。 当たれば脳髄まで届くは必至の速度だが、相手は鑢七花。 四季崎の完了形変体刀『虚刀・鑢』と呼ばれるだけあり、この程度の攻撃は虚刀流の前では児戯にも等しい。 大体、その程度の輩であるなら如何に落ちぶれたとはいえ、真庭忍軍の連中も彼の前に悉く散るようなことはなかった筈だ。 瞬、と飛んだ銀刃を。 粛、と虚刀が叩き落とす。 真ん中で破砕した刃とは裏腹に、彼の手に一切の傷跡はない。 「虚刀流・薔薇ッ!」 轟と空気を切り裂いて、空中で逃げ場のない右衛門左衛門へと前蹴りが炸裂せんと進んでいき、それは直撃の軌道かと思われた。 しかしだ。虚刀が並大抵の輩には討ち果たせぬように、この左右田右衛門左衛門――『不忍』もまた、生易しい手合いではない。 炎刀が無くとも、七花に負けるとも劣らぬ身体能力がある。 速度でならば、此方に長があるといっても過言ではない程だ。 首筋を破壊する筈だった前蹴りは、空中で錐揉み回転をするように身体を捻らせた右衛門左衛門により易々と回避された。 が、これで終わりではない。 七花の回し蹴り――虚刀流・梅が無防備な右衛門左衛門を休む暇を与えないまでの速度で、その胴へと放たれている。 「不悪(あしからず)――だが!」 右衛門左衛門はそれを華麗なまでのバック転でかい潜ると、避けた後の空中滞空時間に、抜き出したメスを数本、投げつける。 これだけの数を捌くことは、並の剣士では不可能だ。 が、この鑢七花という男を前にそんな道理は通じない。 これで仕留めきれる訳がない。 「よっと」 横薙ぎの一閃で、七花は放った細くしなやかな刃を全て捌く。 砕けた刃の破片が宙を舞う。 七花は今度こそ右衛門左衛門へと攻撃を打ち込もうと勢いよく踏み込もうとし、そこで初めて鋭い痛みに呻いた。 散る破片に覆い隠されるようにして飛来した真庭忍軍の棒手裏剣が、七花の脇腹を抉っていたのだ。 こういう手は、やはり暗殺者の得意技である。 様々な相手と、様々なしのびを相手取ってきた鑢七花であっても気付けぬ一撃を放ってのけるは、流石は否定姫の腹心というべきか。 内臓はやられていないから、まだ良かった。 そう七花が僅かに安堵した時には、彼は術中にはまっていた。 右衛門左衛門の姿が、視界から消失している。 慌てて振り返ると、そこには案の定仮面の暗殺者の姿。 突き出されたメスの冷たき刃が、またも彼の肉体を貫く。 「……ちっ!」 七花の攻撃が届くよりも前に、右衛門左衛門は既に素手のリーチから脱出していた。 如何に絶大な威力でも、届かなければ意味がない。 今のところ、戦況は左右田右衛門左衛門へと傾いているようだった。 「――万全ではないようだな、虚刀流」 「ほざけ!」 悪態をつく七花だが、冷静さを欠いてはいない。 欠けているとすれば、それは刀の造形だ。 右衛門左衛門には分かる。 一度はぶつかり合い、敗北した相手だ、分からない方が無理な話。 あの城で拳という刀と、銃という刀を交えた時の彼は、大袈裟な比喩の一切を抜きにして命を省みていなかった。 言葉通り、殺して貰う為に挑んでいた。 腕利きの御側人達を悉く撃破してのけた彼はこれまでの旅路の成果か怜悧かつ屈強、まさしくそれは無双と呼ぶが相応しい技前だった。 しかし今の鑢七花は、どこかが鈍い。 左右田右衛門左衛門はそれが、自らが悪評を広めた少女により負わされた手数であると知らぬままに、唯無情にそこを狙う。 腐っても元は闇夜を舞う忍。 現在だって職業は暗殺者のようなもの。 今は亡き主君の命令とあらば誰でも殺し、幾らでも壊す冷血漢。 しかも今や、主の復活という大望を胸にしている彼に、真っ当な誇りを期待することがまず不毛の極みだった。 ――拳が舞って、銀が飛ぶ。 虚刀の紅が宙を舞い、不忍は自らの有利に口許を歪める。 しかしながら、そこは現日本最強の剣士。 打ち合う中で彼もまた、確実に右衛門左衛門へと疲労を与える。 目に見える傷と、見えない傷の違いだ。 互いに致命傷にはなり得ぬギリギリの境界線を突き詰めていく、いわば終局間際の将棋の如き攻防が繰り広げられる。 完全なる少女により、刀は病魔という錆に冒された。 それによる倦怠感と、更に疲労が彼をどこか鈍らせる。 虚刀・鑢は完全なる刀だが、鑢七花はあくまで人間に区分される。 刀は砕けても繋ぎ合わせることだって可能かもしれない。 少なくとも、伝説の刀鍛冶が――七花を奇妙な刀集めの旅へと導いた当の本人が知る、未来の技術でなら容易いことだ。 だが人間はそうはいかない。 気合いで不治の病は治せない。 胴体から両断されたら、それでおしまいだ。 「不笑」 右衛門左衛門は笑わない。 七花の胴体には所々に赤い線が生まれ、そこから血液が漏れている。 メスや棒手裏剣が刺さったままの箇所さえあるほどだ。 なのに、ちっとも勝てるという確信を得らせてくれない。 これが虚刀流か、と。 覆面の男は、改めて笑えない、との評価を下した。 「笑えねえのはこっちの方だよ。……くそっ、あの女。ホントに邪魔なもんを残してくれた」 やはりあの少女。鑢七花をどんな手段か知らないが、打ち破った少女。 彼女のおかげでこの戦況があるのかもしれないと考えると、少しは感謝の情も湧いてくるというものだった。 炎刀を持たぬ今、手持ち無沙汰なのは間違いなく自分である。 これで相手が万全であれば、逃げるに徹するより他無かった。 右衛門左衛門がまたも刃を投じる。 何度繰り返されたか分からぬ動作を、七花は億劫とばかりに払った。 あの刀の間合いに入るのは愚策。 だが、遠距離からでは確実な決着に繋がる一手を打ち出せない。 現にこれまでの攻撃で、まともなダメージになったのはたった数発だ。 地面はいつからか、金属の破片ばかりになっていた。 手持ちの武器があと幾つあるか数えていれば、相手に先手を許す。 少なくとも、悠長にやっている暇はない。 鑢七花を殺すのに武器を使い切るのはいいが、戦っている最中に武器を使い切るのだけはあってはならないことだ。 勝負を決める。 そうと決まれば、真庭の棒手裏剣を使うのが最も堅実だろう。 メスの切れ味はしなやかで悪くはないものの、一撃の破壊力でならばこちらの方が遙かに勝るのだから。 「右衛門左衛門、あのさ」 いざ動かんとした時に、七花が口を開いた。 彼もまた、決着の訪れを感じたのだろう。 もしくは、決着を無理矢理にでも訪れさせるということか。 「おれは情けねえよ」 情けない。それは、彼の現在の本心だった。 鑢七花を鈍らせているのが、肉体の重みのみである。 そんなのは、戯言に過ぎない。 彼を真に鈍らせているのは、紛れもなく敗北の重みだ。 「おれは失うものなんて、もうなんにもないんだ。とがめはあんたが殺しちまった。おれは何もないんだよ」 七花は決して生涯無敗を貫いている訳ではない。 双刀を振るう怪力使いの一族の、その唯一の生き残りに。 錆び付いた刀、生涯を通して一度しか勝てなかった実の姉に。 剣を扱えない、その欠点を突かれて誠実なる剣士に。 敗北し――しかしながらも立ち上がり、全てその手で倒してきた。 彼には目的があったからだ。 惚れた女の為に、立ちはだかる敵を倒す。 単純にして明快、されど絶対にして最高な理由があった。 「それなのに黒神の奴に負けて、薫ってたんだろうな。ああ、認める」 願いを懸けた殺し合いはまだ半ばであるというのに、だ。 言うならば、本戦を待たずに中途半端なところで敗北した。 立ち上がらせてくれる理由も曖昧になって、それが七花を錆びさせた。 心も錆びて体も錆びた。まさしく、情けない限りだ。 「だから、ありがとよ。右衛門左衛門――あんたと此処で再会出来なきゃ、おれは案外その辺で野垂れ死んでたかもしれねえ」 「不笑。わたしは再会など、望んでいなかったぞ」 「そうかい」 七花は苦笑するように微笑して。 その一瞬後、先程までとは明らかに異なる冷たさを纏い、構えた。 それは覚悟完了の徴。迷いを断ち切った証。 先に駆けたのは右衛門左衛門だった。 メスを右手の指の間に挟み、もう片方で棒手裏剣を持つ。 速さはまさに超速。忍ぶことを捨てたとしても、腐ってはいない。 一瞬に近い時間で間合いを詰めた彼は、右手に鉤爪のように装着したメスで、情け容赦なく七花の肉体を切り裂いた。 浅い。だが、確かに通った攻撃だ。 続いて棒手裏剣を打ち込まんとするが、その瞬間には七花の蹴り上げが手裏剣を砕き、次なる動作を無意と変えた。 速い。切り返しでなら、彼もまた超速のそれだった。 追撃が、鉤爪を模した右手へと及ぶ。 「――――…………っ!」 飛び退かんとするにも、一瞬驚きで時間を喰われた。 それは致命的な隙、あるべきでない異分子。 不覚にも時間にして一秒にも満たぬ空白が、彼を追い詰める。 されどそこは否定姫が腹心だった男。 凄腕のしのびを次々と暗殺してのけ、神の通り名を与えられし男とも互角に渡り合える手練れ。 鑢七花の旅の中でも、一二を争う実力者。 速やかに彼は速断し、肉を切らせて骨を断つことを選ぶ。 即ち、右腕を捨ててでも有効打へ繋げる。 どうせ失うことが避けられないのなら、成功できるかも分からない悪足掻きに賭けるのではなく、現実を受け入れた上で次へ活かす。 がいぃぃぃいいん――――と、鈍く大きな衝撃。 右腕は千切れこそしなかったがその形状をあらぬ方向へと曲がらせ、一目で使い物にならないことを覚らせる。 次は七花が顔をしかめる番だった。 視界が、赤色に包まれたのだ。 投げ込まれる何かを打ち落とした、それが原因らしかった。 破片は苦にならないが、大きく視界を書いてしまった。 目潰し――右衛門左衛門は、病院で手に入れた曰く付きの小瓶を、事もなさげに使い捨てたのだった。 英断だと、七花は思う。右衛門左衛門も信じている。 どうせ使い物にならない物ならば、せめて最大限の使い方で使い潰すのが最善に決まっているのだから。 更に、視界を潰された七花の背後へ、彼は瞬身する。 ――相生拳法・背弄拳……!! 背後にいるものは攻撃しにくいというメリットを最大限に活かし、常に相手の背後を取る、忍者の動きあってこその拳法。 それはひどく単純で、それゆえに攻略が難しい。 視界を封じられている七花では、気付くことさえ遅れる。 「さらばだ、鑢七花!」 繰り出すは絶技。 虚刀を砕くに相応しき一撃。 「――――不忍法・不生不殺――――!!!!」 そして。 鮮血が激しく咲き乱れ。 虚刀流と不忍の再戦の決着は着いた。 ――風が吹いていた。 ◆ ◆ 「――――が、は…………!!」 左右田右衛門左衛門は、倒れていた。 あの時と同じく、その胴体に致命傷を穿たれて。 血液の湖を作りながら、避けられぬ死の訪れを感じさせられていた。 一方の鑢七花は、全身各所に細かな傷を作りながらも立っている。 二本の足で地面を踏みしめ、自らの貫いた敵を黙って見下ろしている。 ――あの時、右衛門左衛門は確かに勝利の一歩手前にいた。 不忍法・不生不殺を決められていれば、勝利は間違いなかったのだ。 仕留めきれずとも視界を封じられた七花では、動きは当然鈍る。 その隙で十分。もう一度必殺を叩き込めば、確実に彼が勝っていた。 なら何故左右田右衛門左衛門は負けたのか。 それはひとえに、偶然だった。 視界を奪われると同時に、七花もまた考えた。 考えるというよりは、ほぼ直感に近かっただろう。 右衛門左衛門が確実に命を取りに来ると、確信することができた。 迎え撃たなければ殺される。それも、此方も必殺で応じるしかない。 ――虚刀流・一の構え。鈴蘭。 更に、それから繰り出される虚刀流最速の奥義・鏡花水月。 そうやって、突撃してくる右衛門左衛門を迎え撃とうとした――が。 彼が背後へと回ったことを、まばらとはいえ微かに見えた視界の様子から察することができた。 それがあとほんの一秒遅ければ、七花は死んでいた。 型のなき、無名の一撃。 振り返ると同時に放たれた、他の奥義のどれにも当てはまらない攻撃。 虚刀流の奥義に属されるほど、それは上等ではなかった。 あまりにお粗末で、けれども鑢七花の全力を込めた一撃。 それは左右田右衛門左衛門の一撃が自らに届くよりも前に、彼の胴体を刺し貫き、この因縁の戦いへと終止符を打った。 ただ、それだけのことだった。 「……おれの勝ちだ、左右田右衛門左衛門」 「や、すり……しちか……!」 右衛門左衛門は立ち上がろうとするが、叶わない。 やはり前回と同じく、死は免れない致命傷であるようだった。 一分どころか、あと十数秒保つかどうかも分からない状態だ。 当然、如何にしのびの如き速さを持つ右衛門左衛門でも、それほどの短時間で優勝を勝ち取ることなど到底不可能である。 彼は、敗北したのだ。 何も為さずに、無意味に無価値に死んでいく。 「虚刀流」 はっきりとした語調で、彼は言う。 無価値の誹りを受けるくらい、何でもないことだ。 けれども、無意味で終わることなどあってはならない。 それではあのお方の――姫さまの腹心として、あまりに無様すぎる。 だから彼は最期に遺すことにした。いや、託すことにした。 自分の遂げられなかった願望を。 恨み言のように、皮肉るように、人間らしく笑って、伝えて逝った。 「姫さまを任せた」 ――――それっきり。 ただ一度だけ吐血して、左右田右衛門左衛門は今度こそ完全に死んだ。 その光景を見つめて、七花はぽつりとつぶやいた。 「そういや、”一人”とは言ってなかったっけな――――」 ばたりと、彼は地面へ仰向けに倒れ込む。 致命傷は負っていないが、如何せん、疲れてしまった。 ようやく一人の戦果を挙げたところだというのに、どうにも眠い。 一度休んだほうがいいか。 ――そういや、右衛門左衛門を殺した、あの一撃。 あれなら、虚刀流の新しい奥義に出来たかもしれないな。 まあ、どうやったのかなんて、もう忘れちまったけど―― 彼はそれ以上睡眠欲求へ逆らうことをせずに、緩やかな眠りへとその意識を落としていった。 【左右田右衛門左右衛門@刀語シリーズ 死亡】 【一日目/真昼/C-3】 【鑢七花@刀語】 [状態]疲労(大)、倦怠感、覚悟完了、全身血塗れ、全身に無数の細かい切り傷、刺し傷(致命傷にはなっていない)、睡眠中 [装備]奇野既知の病毒@人間シリーズ [道具]支給品一式(食料のみ二人分) [思考] 基本:優勝し、願いを叶える 1:……………………。 2:起きたら本格的に動く。 3:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る。 4:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない。 [備考] ※時系列は本編終了後です。 ※りすかの血が手、服に付いています ※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。 ※浴びると不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です。 第二回放送 時系列順 絡合物語は 猫の首に鎖 投下順 繋がれた兎(腐らせた楔) 自己愛(事故遭) 鑢七花 絡合物語は 不忍と不完全の再会 左右田右衛門左右衛門 GAME OVER
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切望(絶望) ◆0UUfE9LPAQ 学習塾の廃墟から骨董アパートへ向かう広い道路の途中で、 「……はぁ」 と着物を着た女がため息をついた。 透き通るような程白い肌を持つその女にはとてもよく似合うため息だった。 『どうしたの?七実ちゃん』 すると、隣にいた学ランに身を包む人畜無害そうな笑顔をした少年が女――鑢七実に声をかける。 「別にどうもしませんよ、禊さん」 七実は少年――球磨川禊に対し素っ気なく返す。 『その割には結構着物を気にしてるみたいだけど。七実ちゃんって綺麗好きだったりする?』 「わたしの趣味は草むしりですが、だからといってそこまでこだわりがあるわけではありませんよ」 『ふーん、まあいいや。じゃあこれは僕からの余計なお世話ってことで』 言うが早いか七実の真っ白な着物についていた赤い模様が消える。 それは一時間ほど前の戦いで一方的に虐殺した日之影空洞の血痕だった。 雑草の分際で自分を汚したことが許せなかった――もはや逆恨みですらないただのいちゃもんだ。 そして球磨川の過負荷――大嘘憑きは血痕を消すだけに留まらず、七実の中にあったものをもう一つ「なかったこと」にした。 「あら、ありがとうございます」 『お礼を言われるほどのものじゃないよ。……ってやっぱり気にしてたんじゃない』 「ただの社交辞令です。ついでに言うなら体もいくらか軽くなったみたいですしそちらの方のお礼を」 『ここまでほとんど歩きっぱなしだったでしょ?疲れもそれなりに溜まっているだろうしそれを「なかったこと」にしてあげただけだよ』 「本当に便利なものですね――その『おーるふぃくしょん』は」 『べっつにー。いくら僕でも「なかったこと」にしたことを「なかったこと」にはできないし七実ちゃんの病気も「なかったこと」にはできなかったしね』 「その気持ちだけでいいんですよ。いえ、悪いのかしら?しかしわたしの目でも見取れないものがあるとは思いませんでした」 『僕たち過負荷っていうのはそういうものだからね。分析するだけ無駄なんだよ』 「確かに結果だけを見て過程や原因を逆算することはできませんしね。それに見取れたところで強くなってしまうようでは逆効果です」 『強くなるだなんて変なこと言うね。誰よりも弱いのが僕たち過負荷なのに』 「弱い、ですか。確かにわたしの体は誰よりも貧弱です。全く、どうせなら健康な体で生き返らせればいいものを……」 後半部分は独り言のように呟いたものだったので球磨川には聞き取れなかったようだ。 それでも何かを言っていたことはわかっていたようなので内容を聞こうとしたそのとき。 ぐ~~~~~ と、どこからともなく音がした。 二人は立ち止まりしばし顔を見合わせ。 『……ごめんね』 気まずそうに球磨川が口を開いた。 「しょうがないでしょう。そういえばもう何時間も食べていませんしね」 『七実ちゃんはお腹空かないの?』 「わたしは元々食が細いですから。でもそろそろ食事にしてもいいかもしれませんね。いえ、悪いのかしら?」 『じゃあスーパーマーケットに行こうよ。ここから近いしこんな道のど真ん中で食事にするよりはいいと思うよ』 「『すーぱーまーけっと』ですか、どういったところで?」 『基本的には食料品を売っていてね――って七実ちゃんスーパーも知らないの?』 「島育ちなので本土のことには疎いんです」 『疎いってレベルじゃ済まされないと思うんだけどなぁ……。まあいいか早く行こっ』 「そうしましょうか」 このとき既にスーパーマーケットに二人を罠にかけようとする人間がいるということは知る由もなかった。 ■ ■ 地図のG-5に位置するスーパーマーケット。 そこに一人の男が訪れていた。 「これだけ時間が経っているのだ、誰かが来ているとは思っていたが――」 彼――時宮時刻が見据えていたのは跡形もなく破壊された鮮魚コーナー。 数時間前、魔法を使ったことで「おなかすいた」ツナギが手当たり次第に消化していったためだ。 陳列されていただろう生魚やら刺身やらは根こそぎ食い散らかされ奥の保管庫の中身もすっからかんであった。 所々にぶち撒けるように床の上にあった発泡スチロールのトレーやマグロの尻尾にあった歯形が下手人の手掛かりを残している。 「歯形の大きさは大小様々か、形を見るに猛獣の類だろう。複数の猛獣を使役した――というところか?」 真相は前述の通りだが、いくら人間離れした存在が数多く跳梁跋扈する暴力の世界にいた時刻とて「魔法」にはそうそう思い至れるはずがない。 まだしも理解力の追いつく「何者かが動物に餌を与えるなどの目的で破壊させた」という考えが先に浮かぶ。 それでも害でしかない発泡スチロールも食べられた跡があったり、隣の精肉コーナーが無事だったりと不可解な点があるが。 「まあこれ以上考えても無駄だろうな。それよりも食事を済ませるとするか」 そう言って惣菜コーナーに足を伸ばす。 この「実験」がいつまで続くかわからない以上、保存が効く缶詰やレトルト食品を持ち出すべきなのだろうが、生憎、今の時刻は左腕を欠損している。 片手で開けるのが難しいため、勿体ないがそのままにしていくことにした。 その点、惣菜やおにぎり、サンドイッチなどの軽食は多少は苦労するが開けられないことはない。 マウンテンバイクが入っていたことから推測できるように、デイパックには容量制限がないようなので多めに入れていく。 賞味期限などの問題はあるが、2、3日は平気だろう。 開けるのにやはり多少は苦労したが食事を済ませ、当面の食糧の確保も済ませたところで、時刻は外へ向かわずある日用品の前で止まった。 しばし逡巡し、それらもデイパックの中に入れていく。 「少々時間はかかるが仕掛けてみるか。それまで他に人間が来なければいいのだがな」 そう呟く時刻の口元にはうっすら笑みが浮かんでいた。 ■ ■ 時宮時刻が「仕掛け」を終えてから約30分、そんな「仕掛け」があるとは露知らず、球磨川禊と鑢七実の二人も到着した。 『ほら、七実ちゃん、ここがスーパーマーケットだよ』 「ここが、ですか――随分しっかりした造りで」 『七実ちゃんお肉食べられないんだっけ?だったらゼリー飲料とかいいかもね』 「『ぜりーいんりょう』……なんですか、それは?」 『七実ちゃん本当に物を知らないんだね……しょうがないなぁ、僕が教えてあげるよ。とりあえずこっちこっち』 と、七実に先んじて入った球磨川だったが、一歩目を踏み入れたその瞬間―― ずるっ と、足を滑らせ、とっさに―― 『う』『ぉ』『おっと――!』 と、声を上げ、体を支える物を探すも手は宙を掴み―― ごっち~ん☆ と、盛大に硬い床に後頭部をぶつけたのだった。 突然のことで何があったのか理解できなかった七実は茫然と事態を眺めていたが、このままでは埒が明かないので、 「禊さん?」 声をかけてみるが反応しない。 今の球磨川の状況をさながらベタなギャグマンガの表現で表すとすれば目は渦を巻き、頭上を星が回っている――といったところか。 端的に言えば、気絶していた。 「起きてくださいな」 しゃがみこみ、頬をぺちぺち叩きながら尚も声をかけてみるがやはり反応しない。 「――しょうがありませんね。まあ、なんとかなるでしょう」 ひょい、と球磨川を拾い上げ肩に担ぐと、先程までと変わらないペースで歩き出した。 日本の高校3年生の平均体重は63kg――球磨川もそれぐらいの体重のはずだが七実は全く重さを感じていない。 それもそのはず、このバトルロワイアル開始当初から多用している忍法足軽の効果だ。 「しかしわかりません――どうして禊さんは足を滑らせたのでしょうか……」 不気味に光る床の上を何事もなく歩きながら七実は呟く。 その先が罠へと繋がる一本道をは気付かずに―― ■ ■ 入口をじっと棚の陰から見張る者がいた。 無論、時宮時刻である。 店内には棚が乱立しており、隠れる場所には事欠かない。 それでも、気配で気付かれる可能性があったため離れたところから覗くことしかできなかったが。 「念のためにと思ってやったものだったが……ここまで効果があったとはな」 球磨川が足を滑らせ、後頭部を強打し、気絶した原因――それは原液のまま撒かれた洗剤だった。 店の出入り口は一ヶ所しかないため、必然、時刻がスーパーを出るときも洗剤の海を渡ることになるが、それについては抜かりはない。 意図的に洗剤の無い箇所を作り、自身が出るときは滑らないようにしてある。 「あそこまでうまくいくとなると本来の目的からはズレてしまうが――」 時刻が本当に用があったのは洗剤の中身ではない。 あれは本命の「仕掛け」が終わった後にあくまでついででただの思いつきでやってみただけのものだ。 気絶までされるとは時刻も予想外ではあったがそれはそれで相手が目覚めたときに無抵抗に繰想術をかけられるからよしとする。 七実はきょろきょろと周りを少し気にしながら時刻のいる方向に歩いて来ていた。 この距離ならばそろそろ勘付かれるかもしれない――ならば見つかる前に自分から姿を現すとしよう。 「――ここまで思い通りにいくとは期待できそうだ。罠を仕掛けたかいがあったというものだ」 それでも時宮時刻は気付かない。 僅か数時間前に人類最終・想影真心という前例にどんな目に遭わされたのか忘れたわけではないのに、気付かない。 罠にかかった獲物が被食者でなく捕食者であるという可能性を―― ■ ■ 突然七実の進路上に人が現れた。 だが、それに七実は動じることなく。 「あら、わたしたちの他にも人がいたんですね」 その辺でたまたま知り合いに出会ったときのように話しかける。 武器などを隠し持っていないかを足元から一応確認し、最後に顔を見る。 そして、 目が、合った―― 瞬間、肩に担いでいた球磨川と持っていた双刀・鎚が落ちるのと同時に忍法足軽が解ける。 本来の重さを取り戻した球磨川はどさりと2回目の床との激突を果たし、鎚は3分の1程陥没する。 七実は目を開き意識をなくしたまま立ちつくし今は時刻の傀儡と成り果てていた。 「無抵抗だったとはいえこうも操想術がうまくいくとは――下地の効果はあったようだな」 時刻が本当に用があったのは洗剤の中身ではなく中身が入っていたボトルだった。 色にはそれぞれ意味がある。 時刻はそれを利用した。 陳列されている商品の色も利用しながら。 怪しまれないようにさりげなく。 主張しすぎずそれでいて目には映り。 意識には残らずとも無意識には残るよう。 数種類の色のボトルを配置し、操想術をかけやすくするための下地を形成した。 滑らせるために撒いた中身は相手を警戒させるためのものだ。 入って早々あんな目にあえば、自然、周囲の状況に必要以上に気を配る。 聴覚は過敏になり、視覚は余計なものまで捉えてしまう。 さらに言えば、相手が七実だったことが時刻にとって幸いした。 七実の見稽古はまず見ることから始まる。 見る。 見切り。 見抜き。 見定め。 見通し。 見極め。 見取る。 見る――視る――観る――診る――看る。 観察するように――診察する。 だから。 目を合わせることで発動する時刻の操想術とは非常に相性が良かった、いや、悪かったのだ。 横に倒れている男のことはほっといてまずは落ちた石刀を拾い上げようとする。 が、時刻の右腕では持ち上げることはかなわなかった。 時刻が非力というわけではない。 自由落下のみでめり込んだことも考えれば仮説が立つ。 これは超重量の物体で、これを容易く持ち歩いていた女はとてつもない怪力の所有者であると―― そしてもう一つの仮説が浮上してくる。 この女は世界の終わりに繋がるのでは?と―― どことなく人類最終と似た雰囲気を抱えている彼女。 世界の終わりに繋がるかもしれないのならばかけるべき操想術は支配ではなく――解放だ。 そうと決まれば――時刻は七実の頭部を掴み、目を合わせ、術をかけていく。 解放の操想術をかけながら支配の操想術を解くのも忘れない。 下地がまだ残っていた影響か施術は5分もかからず終わった。 人類最終は解放こそしたが直後に自身が投げ飛ばされたこともあって成果を見れていない。 「そういえば名前を聞いていなかったな……さあ、君はどうするのかな?」 人類最終の二の舞を踏まないよう、離れようと背を向けながら独り言を呟いた時刻に返事があった。 「わたしの名前は鑢七実と言います――ところで」 「む?」 反応し振り向いた瞬間、闇色の目があった。 ■ ■ 「その汚らわしい手でわたしに触れましたね――この、草が」 一瞬で吹き飛ばされた。 時刻には何をされたのかわからなかった――認識できる事象の範囲を超えていた。 操想術によって解放された七実は何の技術を行使することなく、ただの純粋な反射運動のみでやってのけたのだ。 壁に叩きつけられたことで背中の傷口が開く。 鋭い痛みが蘇るが、それ以上に時刻は喜びに溢れていた。 この鑢七実という女は――当たりだ。 当たりも当たり、人類最終に匹敵するかもしれない大当たりだ。 そんな時刻の考えがわかるはずもない七実は吹き飛ばしただけで満足するはずもなく、時刻に迫っていく。 虚刀流の足運びも忍法足軽も使用せずただ歩いているだけなのに、瞬間移動をしているかのようだった。 壁にもたれるように座り込む時刻の左足を七実が踏みつけた。 繰り返し、繰り返し、繰り返し。 時刻の反応などまるで構わず――踏みつける。 「草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。 草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。 草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が」 大動脈が潰されたことで血がどくどくと流れ出る。 背中を刺され、腕を捥がれてもまだ、体内にこれほどの血が詰まっていたのか―― そんな時刻の反応を尚も構わず七実は踏み続ける。 「草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。 草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。 草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が」 程なく――時刻の左足は失われた。 跡形もなく――ただの血だまり、肉だまりと化した。 これは、逃れられないな――このような目に遭ってもまだ意識のあった時刻は自らの死期を悟る。 だが、心は晴れやかだった。 ああ、自分は世界の終わりに近づけたのだ。 直接見ることが叶わないのが心残りではあるが――やはり死心地が違う。 薄れゆく意識の中、声がした。 『これ以上は駄目だよ、七実ちゃん』 一緒に入ってきていたあの男だ。 目が覚めたのか。 しかし、手遅れだ。 もう解放されてしまっている。 人類最終のように不完全な解放ではない。 止める手立てなどありはしないのだ。 「禊…さん、わたしの邪魔をしないでください」 『そんなこと言ったって無茶な動きをしたせいで体がボロボロじゃないか』 「関係ありません。警告は一度だけですよ」 『僕が気絶してる間に何かされちゃった感じなのかな?安心して、それも「なかったこと」にしてあげるから』 途端、目の色が変わる。 戻る。 止まるはずのない解放が――止まった。 「何故だ!何故邪魔をする!」 気づけば時刻は叫んでいた。 これ以上流れ出る血もなく、ただ安らかに死を待つだけの体に鞭打ち、あらん限りを振り絞って叫ぶ。 「その女は人類最終にも勝るとも劣らない世界の終わりへと向かう可能性だ! だからこそ解放してやったというのに何故戻す! 人類最終のときとは違う、完全な解放だ!」 「完全な解放?まさかあれがわたしの全力だと思っていたのですか?」 「何……?」 突き落とすかのような言葉だった。 「わたしの全力はわたしだって耐えられませんよ、あれで完全な解放だなんて滑稽も甚だしい」 では、さっきまでのあれはなんだったのか。 解放では、なかったのか……? 「最初の方はおっしゃっていた下地……とやらの影響でしょうか、わたしに逆らう術はなかったんですよ」 下地のことがわかっている――最初から失敗していたのか? さらに時刻にとって衝撃の言葉が続けられる。 禊、と呼ばれた男も口を挟んできた。 『えーっと、僕には状況が理解できないんだけど……何?世界の終わりなんてものが見たかったの、君は?』 「何が、『なんてもの』だ!お前らごときに何がわかる!」 『でもさ』 ずい、としゃがみこんでくる。 視界はもうおぼろげで輪郭くらいしかわからないが、簡単な操想術ならかけられる。 時刻の思惑通り正面に球磨川の顔がやってくる―― そして。 目を、合わせた―― が。 『ほら、僕には何もできないでしょう?そんなんで世界の終わりなんて見れるわけがないじゃん。ばっかみたーい』 そのとき隣に都城王土がいたとはいえ、受信の異常を持つ行橋未造に「思考が全く読めない」と評された彼である。 眼球に何かが浮かぶはずもなく、鏡のように反射し、放たれた操想術はさながら呪い返しのように時刻に返る。 「ぐ、うぅ……」 それでも、時刻は完全に自我を失ってはいなかった。 瀕死で放った操想術が不完全だったのか自身に耐性があったのかはわからない。 「まだ……まだだ。ここまで来て終われるはずがないだろう」 血を流し尽くし、唯一の目標を折られ、肉体も精神も抜け殻となりかかって尚、生きようとしていた。 世界の終わりに近づける可能性なのだ。 先程の解放が不完全?ならば今度こそ完全な解放をさせるまで。 こんなところで邪魔立てされるわけにはいかない。 そこに、とどめが刺さる。 「禊さん、ちょっとどいてくださいますか。この方の言っていた操想術とやら、試してみたいんです」 『んん?いいよー』 操想術を試す?一体何を言っている。 この技術は一朝一夕で身につくものではない。 それなのに、何故、その色はなんだ。 やめろ。 そんな色で見るな。 そんな色の目で―― 再び闇色の目がやってくる。 目を合わせられた時刻に抵抗ができるはずもなく、辛うじて繋ぎ止められていた意識がぷっつりと切れた。 ■ ■ 「大体こんな感じですかね」 『終わったの?』 「ええ、まあ。といってもこれ、調子が悪かったみたいなので本当に効果があったかどうか疑わしいですがね」 これ、ともう動かなくなった時刻を言葉だけで示し、球磨川と言葉を交わす七実。 彼女の見稽古は時宮の繰想術までも見取っていた。 支配の繰想術と解放の繰想術、それぞれ一度ずつしか見ていなかったため不完全ではあるが。 事切れた肉塊には既に興味を失い、見据える対象は球磨川一人のみだ。 『でも彼は何がしたかったんだろうね?世界の終わりがどうとか言ってたけど。』 「そんなこともわからず挑発していたのですか?」 『ちょっと台無しにしてみたくなってみただけだよ。それに僕はマイナス十三組のリーダーなんだから七実ちゃんに危害を加えるのを見過ごせるはずないじゃないか』 「ぬるい友情――ですか」 『あ、覚えててくれたの?三つのモットー』 「いいモットー――いえ、悪いモットーでしょうと言ったではないですか。むなしい勝利も手にしてしまいましたし」 『そういえばそうだね。じゃあこの場合無駄な努力はどうなるのかな?』 「それもわたしでしょう、操想術なんてものを見取ってしまいましたが使い道が今のところありません。それこそ無駄な努力です」 『ふうん、まあいいや。それよりもさ、食事にしようよ』 興味を失ったのは球磨川も同じでそれまでのことが「なかったこと」のように話を続ける。 「そういえば――食事をしに来たのでしたね。……どうしたんですか、禊さん?」 『ほら、この人のカバンの中サンドイッチとかおにぎりとかいっぱい入ってるよ。探す手間が省けたね』 「あら、それはよかった、いえ、悪いのですかね」 『うーん……肉が入ってるのがあったりするから七実ちゃんには悪いかも。さっき言ってたゼリー飲料探してみる?』 「わたしにはよくわかりませんし、禊さんにおまかせしますよ」 『そう、じゃあ多分こっちかなー。ついてきてよ』 二人はその場を後にする。 片手片足を失くした男には目もくれず。 ■ ■ スーパーマーケットを出て再び道路に出た二人。 入る前と変わらない歩調で進み続ける。 『どうだった?口に合った?』 「悪くはありませんでしたよ。ですが、量は若干多いかもしれませんね」 『そういうときは蓋をすればいいじゃん。こうやって、さ』 手に持ったゼリー飲料のパックの蓋をひねって七実に示す。 球磨川も味が気に入ったようだったので時刻同様多めに持ち去っていた。 「これは便利ですね。そういえば、禊さん」 『なぁに?』 「その袋、食べ物以外には何か入っていなかったんですか?」 『何本か洗剤と錠開け専門鉄具ってのが入ってたよ。鍵を開けられるらしいけど僕の場合あまり必要ないかもね』 「『なかったこと』にしてしまえる――と」 『そういうこと、その気になれば鍵穴を「なかったこと」にもできるしね。なんだったらこれ七実ちゃんにあげるよ?』 「でしたら、お言葉に甘えましょうか」 『なら僕が入れてあげるよ……あれ?あの棍棒みたいなのどうしたの?』 「それなら置いてきましたよ。いつまでも持ちっぱなしというのも疲れますしね」 『疲れなんて僕が「なかったこと」にしてあげるのに』 「いつまでも頼りっぱなしというわけにはいきません」 『強がっちゃって。仲間なんだからいつでも頼ってくれて構わないんだよ』 「別に強がってるわけでは――」 否定しようとして止まる。 今更否定して何になる。 錆びた刀には温(ぬる)い馴れ合いがお似合いだ。 このまま堕ちていくのも悪くないだろう。 『どうしたの、急に立ち止まっちゃって』 「お気になさらず。頼ってもいいというのでしたら、着物と草鞋の血を消していただけますか」 『お安いご用。それにしても七実ちゃんも結構潔癖なんだ、僕と同じだね』 球磨川禊。 マイナス十三組のリーダー。 好きな相手と一緒に駄目になる。 愛する人と一緒に堕落する。 気に入った者と一緒に破滅を選ぶ。 強固(ぬる)すぎる仲間意識の持ち主。 そんな彼と同じと評された錆びた刀、朽ちる天才――鑢七実。 余談だが錆には二種類ある。 一つは、一度できてしまえば内部を浸食し続ける赤い錆。 一つは、表面に緻密な膜を作り内部を保護する黒い錆。 どちらも切れ味こそ鈍るが内部には大きな違いがある。 彼女の錆は、何色なのか―― 『こんなに広い道だし、さすがに今度は迷わないよね。あ、そういえば』 思い出したように球磨川が言う。 『あの人の名前、僕知らないんだけど七実ちゃん知ってる?』 「いえ、結局わたしも聞かずじまいでした」 勝者は切望して死に、敗者は絶望して死ぬ。 時宮時刻――世界の終わりを望んだ彼がどちらであったかは言うまでもないだろう。 【時宮時刻@戯言シリーズ 死亡】 【一日目/午前/G‐5】 【鑢七実@刀語】 [状態]健康、身体的疲労(小)、満腹 [装備]無し [道具]支給品一式×2、錠開け専門鉄具、ランダム支給品(2~6) [思考] 基本:弟である鑢七花を探す。 1:七花以外は、殺しておく。 2:骨董アパートに行ってみようかしら。 3:球磨川さんといるのも悪くないですね。 4:少しいっきーさんに興味が湧いてきた。 [備考] ※支配の繰想術、解放の繰想術を不完全ですが見取りました。 ※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。 【球磨川禊@めだかボックス】 [状態]『健康だよ。だけどちょっと疲れたかな、お腹は満腹だけどね』 [装備]『大螺子が2個あるね』 [道具]『支給品一式が2つ分とランダム支給品が3個あるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』 [思考] 『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』 『1番はやっぱメンバー集めだよね』 『2番は七実ちゃんについていこう!彼女は知らないことがいっぱいあるみたいだし僕がサポートしてあげないとね』 『3番はこのまま骨董アパートに向かおうか』 『4番は―――――まぁ彼についてかな』 [備考] ※『大嘘憑き』に規制があります。 存在、能力をなかった事には出来ない。 自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り2回。 他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り3回。 怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。 (現在使用不可。残り45分) 物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします。 ※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。 ※戯言遣いとの会話の内容は後続の書き手様方にお任せします。 ※G-5のスーパーマーケット内に時宮時刻の死体、双刀・鎚@刀語が放置されています。 神に十字架、街に杭 時系列順 多問少択 神に十字架、街に杭 投下順 多問少択 この世に生きる喜び 球磨川禊 赤く染まれ、すれ違い綺羅の夢を この世に生きる喜び 鑢七実 赤く染まれ、すれ違い綺羅の夢を 四人 時宮時刻 GAME OVER
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新本格魔法少女りすかからの支給品 影谷蛇之のダーツ 影か体に刺すと口以外は動かせなくなる魔方陣が組み込まれたダーツ。 制限により止められるのは5分間。 ※以下、ロワ内でのネタバレ + 【アイテム追跡メモ】 【アイテム追跡メモ】 [支給された参加者] 櫃内様刻 [所有者] 櫃内様刻(15話、30話、49話、85話(前)(後)、93話、107話)、125話、131話、136話、142話、154話、156話、158話(前)(後)、162話、164話、166話、169話、171話) [メモ] 櫃内様刻の初期支給品だが初登場は107話。 以降も様刻が所持。 カッターナイフ まだ本バトロワでは言及されてないが、おそらく水倉りすかのものであると思われる。 ※以下、ロワ内でのネタバレ + 【アイテム追跡メモ】 【アイテム追跡メモ】 [支給された参加者] 水倉りすか [所有者] 水倉りすか(6話、40話、59話、78話) ↓ 零崎双識(78話、101話、105話、120話、127話、129話) [メモ] 登場話から水倉りすかが装備。 78話で零崎双識に奪われ、以降は双識が所持していたが129話にて江迎の過負荷により腐敗。
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